前の記事では、再生音の『聴こえ』の問題は「人間は再生音の何を聴きとっているのか?」なのだと書いたが
説明が不足していたようだ
問題は、医学的な『耳』から入って来た情報を脳がどのように処理しているのか?と言う事なのだが…
医学的な『耳』とか神経のニューロンがどうのこうのと言うレベルでは無い
脳の聴覚情報処理野がどのような働きをしているのか? が問題なのだ
視覚情報で言えば、網膜に映っているのは倒立像だと言う事ぐらいわかるだろう? ー 脳が正立画像に変換して見せてくれているのだ
生まれつき盲目だった人が手術によって視力を獲得しても 「何が見えているのか?」 さえもわからないのだと言う
直線、円、三角形、四角形と学習して行って、最終的に 横から見た自動車を自動車と認識できるようになっても 正面からの像では自動車と認識できなかったりするのだ
要するに、赤ちゃんの頃から視覚情報を脳にインプットし続けて、周囲の状況と視覚情報の関連付けを行なっていないと、人間は「何が見えているのか?」さえもわからないのだ
視界の情報量は、中央部に比べて周囲の情報量ははるかに少ないし「色付き」なのは視界の中央部だけなのだとか (そうやって情報の総量を節約しているが、視界全体にわたってそれなりの情報が得られているように思わせてくれているわけだ)
緊急時には、色彩情報を捨てて時間領域の情報収集/処理に集中するのだ ー だから、交通事故の時など時間がゆっくり進行しているように感じて、「何が起こっているのか」がわかるのだ ー わかるだけで何もできないが(経験談)
「見る」という行為に、脳がどれほど関わっているのか と言う事がわかるだろう
それと同じように「聴く」という行為にも、脳の働きが大きいのだ
再生音の「聴こえ」については、単なる医学的な「聴音」などよりもはるかに脳の関わりが大きくなる
オーディオにおける「耳が良い」というのは、脳の聴覚情報処理野の働きが良いという事だ
作家の五味康介氏は聾者とされる程度の貧弱な聴覚しか無かったのに、カートリッジの音の違いを驚くほど的確に聴き分けたと言う
脳の聴覚情報処理能力が高かったのだ
人間は再生音の何を聴きとっているのか? は、『創造の館』の主がやれる程度の計測では突き止める事はできない
更に付け加えておくと
オーディオは 極私的な趣味 だと言う事だ
自分の装置で、聴き慣れた曲、聴き慣れたフレーズが望むような聴こえ方をしてくれない時 私達は再生音に不満を抱いて様々な試行錯誤を繰り返す
ー それがオーディオと言う趣味だ
超絶に耳が良い(オーディオ的に)人を除けば、他所に行って自分の物とは全然違う装置違う部屋で違うソースを聴くのと
自分の部屋で使い慣れた装置で大切な曲のお気に入りの部分について聴くのとでは
「聴こえ」の違いを聴き分ける能力には 一万倍以上の感度の違いが出るだろう
そして、大切なのは、自分の部屋で自分の装置で大切な曲が 望むような音で鳴ってくれる事だ ー それがオーディオと言う趣味だろう
大勢人を集めてブラインドテストしましたと言うのも、まあ意味が無いとは言い切れないが ー オーディオと言う極私的な趣味には馴染まないところも有る事は知っておかなければならない
他人の事などどうでも良い ー 自分にとってどう聴こえるかが全てなのがオーディオなのだ
大した事も無い計測方法/技術で測定して違いが見つからないから音が同じなどと言うのは滑稽過ぎる
私達の『耳』(つまり脳)は 多くの場合「音の違い」を聴き分ける ー 特に自分の装置 自分の部屋で自分の愛聴曲のお気に入りのフレーズを聴いた時
『創造の館』の主が何を思おうと勝手だ ー が、それを他人に押し付けるな!
レベルの低い話を信じるのも勝手だ が、それを他人に押し付けるな!
まあ、
ある時良いと思っても時間が経過したらそうでも無かったなどと言うのは日常茶飯事だが、それも含めてオーディオなのだ
大金をかけて高価な電源ケーブルを買って、これできっと良い音が出るだろうと言う暗示を自分にかけている場合も有るだろう (保険の意味も有る?良い物を使っていれば間違いは無い的な)
が、ある時、それを安い物に変えざるを得なくて貧弱な音しか出なくて絶望する事も有る(経験…)
一本だけじゃ無く、様々な機器の電源ケーブルを全部いっぺんに変えてみればすぐにわかる
時間と言うファクターも大きい ー 良いと思っても時が経つうちにそうでも無いと言う事も有る ちょっと聴きで良くても長期間使用しているうちに良いと思えなくなる事も良く有る事だ
分割振動しないと称するスピーカーメーカー推奨のD級アンプ、使っているうちにつまらなくなって使用しなくなったが、もう一度鳴らしてみようか? ー ONKENのカニトランスと大春コンを使って SiCショットキーバリアの整流ダイオードが使えれば… あんまりお金は使いたく無いんだが
MUSES05DIP化キットが再発売されたら…
閑話休題
そう、
再生音はそう言った事の積み重ねなのだ ー 接点一つ増えただけだと違いがわからなくても、接点が10個になるとわかるだろう ー おそらく、接点100個だと誰でも違いがわかるだろう そして、接点100個だと測定データに違いが出る可能性が大きい
そういう事だ
抵抗による音の違いも、一個だけだとわからなくても、アンプの抵抗を全部変えてみればわかるだろう
電源のケミコンの違いは ー 計測にもかかるし音はコロコロ変わる ー が、アンプの周波数特性などには反映しないだろう スルーレートとかも
トランスの違いも同じようなものか ー トランスとバッテリーでは?
バッテリーの種類と音の違いの関係は? ー ソーゾー君、測ってる?
10MHzの方形波の肩の様子には反映するかも… ー ソーゾー君、測ってる?
人間は、再生音の何を聴きとっているのだろう? この分野の研究はどこまで進んでいるのだろう?
ちっとは考えてごらんよ ー ってのは『温暖化』に関連して毎度言っている事だが
そして、
今年亡くなった坂本龍一氏は、20世紀後半を代表する作曲家 武満徹氏に「君、良い耳してるね」と言われて嬉しかったそうだが、
この場合の「良い耳」は、オーディオにおける「良い耳」などよりはるかに高いレベルの脳の働きが関わっている事ぐらいわかるだろう?
ちなみに、10代の頃、坂本龍一氏はコンサートホールの入り口で「打倒!武満徹!」を叫びながらチラシを配っていた
私は、「打倒するべき奴は別にいるだろう…」と思いながらコンサートホールに入って行った
風体は同じような感じだったな…