携帯電話のSIMロック解除販売(SIMフリー化)が先月あたりから話題になっています。
SIMフリー端末とは、NTT DoCoMoやSoftBankなどのオペレーター(通信会社)を固定せずに、複数のオペレーターで使用可能な携帯電話の事です。
これはつまり、回線契約に縛られずに、電話機本体を自由に販売・購入して使用出来る様になるという事を意味します。
僕はこのことには大賛成なのですが、メディアを見る限りでは、あまり盛り上がっていない気がします。
そもそも、実際にユーザーにとってどういうメリットがあるのかが、きちんと報道されていないと思うのです。
SoftBankの孫社長なんて、「販売奨励金の制度が使えなくなるので、携帯電話の販売価格が4万円以上になる」なんて、不況下で価格に敏感な消費者をあえて牽制するような、いかにも孫さんらしいコメントを出していましたが、孫さんだって中国や諸外国で最も売れているのは大手メーカーの3000~4000円の廉価帯の携帯電話だという事を知らない訳がありますまいに。(海外で見るこれらの携帯電話って、機能も外観も、なかなかしっかりしていますよ)
もともと、携帯電話のSIMカードは、同じ電話番号で自由に電話機本体を交換して使う事を目的とした仕様になっています。その為に、電話帳データやそのほかのコンテンツをSIM自体に保存出来るようになっています。
DoCoMoやSoftBankのSIMは容量が最小で64Kバイトしかなく、電話帳も50件ほどしか保存出来ないけれど、実際には仕様上は128Mバイト(あるいはそれ以上)と、遥かに大容量に増やす事が出来る様になっています。
今の日本の携帯電話市場では、端末の機能を選ぶ自由はあまりありません。
製品の種類ばかりがやたらに多いので、この事はほとんどの人があまり実感していないと思いますが、実際にはどの機種も横並びの仕様で、どれを取っても数百万画素のカメラあり、ワンセグあり、自分撮り用のカメラあり、という状況になっています。(前述の孫さんの「4万円以上」とは、そういう多機能の携帯電話を想定しているのです)
例えば今の高齢者のユーザーの人たちはどう思っているでしょうか。
揃いもそろって、凝った機能は一回も使ったことがない・使い方が判らないと言いつつ、高画質のカメラ付き・ワンセグ付き・ブラウザ付きのケータイを持っているのが現実だと思うのです。
もっと単機能で、その分安くて、メールやウェブなど使わない分、家族や親しい友人やと長時間お話ししたいと思うのが普通だと思うのです。使いもしない機能の為に、2年間も契約で縛られて毎月数千円ずつ高価な端末の月賦を払い続けるのって、何かおかしい。
オフィスで働く女性のユーザーを考えてみます。
仕事で使うなら、画面が大きくて、出来ればフルキーボードがあって長いメールの返信もストレスなく出来て、更にファイルの添付などもこなせるスマートフォンがあれば好ましいでしょうね。
でも、夜にパーティーに出掛ける時は、通話とメール・ブラウズ以上の機能は要らない代わりに、とても薄くて軽くて、バッグの中でもかさばらず、オシャレだけど服装に合わせやすいスムース・プレーンなデザインの、小さな携帯電話が欲しいのではないかと思うのです。
更に、旅行に持って行くなら、大きさはなるべく小さくて、でもそこそこ良いカメラとウェブブラウザと、道順や観光スポットを検索する為のGPS機能があって、バッテリーが長持ちする携帯電話があればバッチリだと思います。
こんな風に携帯電話を使い分けられれば、便利だし、素敵だろうなと思います。
SIMフリー化が実現すれば、このようなユーザーの自由が叶えられるはずなのです。
ユーザーのライフスタイルが多様であるように、一人一人のユーザーのリビングスタイルもその時々で多様に変化します。
そして、そのどのような場面でも、コミュニケーションは存在するのですから。
考えると色々な可能性が浮かびます。子供用のケータイ、オシャレなミセスの為のケータイ、アウトドア派のケータイ、お年寄りのためのケータイ。
そして、それらのほとんどは、現在の日本の一般的な携帯電話よりも安価に製造されうるものばかりです。どれをメインの機種にして、どれをセカンド機にするのか、それも勿論ユーザーの自由です。
でも、そんな夢を、今のSIMフリーの報道は伝えてくれませんね。
海外の携帯電話は、SIMフリーの環境だったからこそ、多様なカテゴリーの製品が生まれて、それが巨大な市場に育って来ました。その結果、海外の市場には、実に多彩な携帯電話があります。
日本の電子機器メーカーが海外の携帯電話市場で大きな実績を残せていないのは、そもそも国内市場でユーザーの多様性に対応した商品展開をせずに、DoCoMoなどオペレータ主導の付加機能重視の横並びのビジネスを長い間続けてきた事も原因のひとつなのかなあ、と思ってしまいます。海外の多様な市場に対応する力がなかったのかなと。
携帯電話って、「ないと困る」商品に育ったがために、日本では、真の選択肢がないビジネスモデルが出来上がってしまっているのですね。
日本の携帯電話の市場を「ガラパゴス」と呼ぶ人がいます。
これは本当は悲しむべき事だと思いますが、未だにこれを、あたかも先端技術の結果だと自慢げに言う人がいます。
でも、日本の一般のユーザーが、他国のユーザーより高度なユーザー・エクスペリエンスを享受しているかと言えば、お世辞にもそうとは言えません。むしろ逆なのではないかと思います。
これはiPhoneだのiPadだので騒がれている様な、エポック・メイキングな端末の出現とは全く違う次元の話です。日本のメーカーがiPhoneキラーとなる様な端末を開発したところで、市場の多様性への対応に貢献出来る訳ではないのですから。
加入者が一億を超え、飽和状態になって久しいと言われる日本の携帯市場ですが、SIMフリーへの動きが加速して、安価な2台目・3台目の携帯電話の需要が発生・拡大すれば、携帯電話の市場ももっと活気づきますし、ユーザーの楽しみも増えると思うのです。
それが携帯電話の使い方の新しい話題やアイデアを生む事にもなるでしょうし、その結果、また現在とは違った、日本独自の携帯電話の文化を生むかも知れません。
僕は、ぜひ近い将来に、そういう時代が来る事を期待しているのです。