学生時代つきあっていた人が

いわゆる「霊が見える」人だった。



私自身、金縛りや悪寒を感じることはあっても

実際に見たことがないので

今でも彼の言葉は半信半疑なのだけど。




ある夏休み、石川県の古い温泉町に遊びに行った。

有名な観光地ではなく

古い湯治場という感じで

昔から近隣の人達が

病床治療にきていたような

ちょっと錆びれた感じのする温泉町だった。




夕方に公衆浴場に一風呂浴びにいって

辺りが暗くなってきた頃

坂道がつづく田舎道を

二人で散歩した。




田んぼや森のあいだの道。

緩やかな高台から降りる坂道。

そのカーブの途中

用水路と田んぼの間を眺め

彼が立ち止まった。




しばらくの間、身動きもせず

彼はじーっと

何も無いはずのところを見つめ続ける。




「どうかした?」

そう尋ねた私に

「誰かいるんだけど、ぼんやりしてみえないから

誰かなって思ってみてる。」


そんな答えが返ってきた。




ぞぞーっと

鳥肌がたって

彼がみているほずのところを

見つめてみたけれど

何もいるはずもなく。




とりあえず、散歩を続けようと

彼の手を引っ張って

歩き始めた。




ゆるいカーブの途中で

彼は歩いていた道の端から

真ん中あたりに移動して

会釈をした。




誰に??




周りには誰もいなくて

私たちのほかには誰も見当たらない。




慌てて訳を尋ねると

「芸者さんがおいで、おいでしてたからねぇ。」




見えるのも怖いけれど

見えないのも怖いと思った夏の日だった。