車はボディーの前方が拉げていて、フロントガラスは砕け散って周りに散乱していた。さらにドアもグチャグチャになっていて、何かを使わないと開けれそうにない。

「救急車は呼びました。事故の状態はどうですか!?」

 コンビニから店員が血相を変えてでてくる。

「ドアが開かなくて、何かテコに使えそうなものは無いですか?」

「ちょっと待っててください!」

 店員はまたコンビニに慌てて戻っていく。

 自分でも何か使える道具がないか周りを見渡してみる。が、鉄の扉を開けてくれる様な、丈夫な素材は見つからない。

「?」

 駐車場の黒色の上に、ガラスでは無いものが街灯の光を反射していた。

「指輪?」

 近寄って拾い上げると、それは『金色のリングにサファイアの様な緑石が埋め込まれた』指輪で、コンビニの駐車場には落ちているはずの無いものだが、なぜか落ちていた。

「持ってきました!!!」

 店員が走って戻ってきた事に驚き、慌ててそれをポケットに押し込んだ。

 店員は厚い鉄板の様な物を両手に抱えて持っていて、それが何かはわからなかったが多分、ドアを開けることはできるだろう。「ドアの隙間に差し込むんで、思いっきり蹴りましょう」

「……はい、わかりました」

 ちょうどこの為に誂えたかの様に隙間に入り込んで、一つ安心することができた。

『せーのッ!』


――ガコンッ

「開いたっ」

「大丈夫ですか?」


―――しかし、ドアを開けた先にあったのは、外観を更に超える惨状だけだった。



 コンビニ「CloverHearts」はこの辺りでは珍しい24時間営業の店で、バイトが終わる午後11時頃からでも雑誌立ち読みに明け暮れることができる、俺的オアシスだった。
「この双子のキャラクターともお別れか」
 このコンビニのイメージキャラクター(?)である、二人の少女の笑顔が何度バイト帰りの俺を癒したことだろうか…
 見慣れたバイト店員を一瞥し、いつもの癖で雑誌コーナーに向かってしまう。
「漫画なんか読んでる場合じゃない、か…」
 そう、これからは学校以外の場所でも参考書という雑誌と向き合っていからなければならない事が決定事項。新しい雑誌は無類の堅物で、これからの付き合いがとても不安だ。
「ん?」
―――ふと顔をあげると、視線の先に見覚えのある風景が広がっていることに気がついた

『事故!?』


 いつの間に起きたのだろうか、目の前には駐車してあったトラックに激突している車が潰れて火を噴いているという惨状があった。
(ここからじゃ様子が見えない、とにかく救急車ッ)
「すいません、事故が起きてます至急救急車に連絡してください!!」
「へっ!?どこで!?」
 店内の誰も気づいていなかったのか、店員はぽかーんとした顔で俺の顔を見ていた。

 店の外に出ると、やはりいつか見た風景がそこにあって、俺はいても立ってもいられず、車のそばに駆け寄った。


「本当に辞めるのかい?」
「すいません、これから受験勉強が忙しくなるんで…」
 店長は少しばかり困ったような顔をしたが、こっちの事情を鑑みてくれたのだろう。ゆっくりと頷くと、
「がんばって、志望校に受かって来いよ!」と笑顔で俺の肩に手を置いた。
「はい。ありがとうございます」
 素直に、店長の言葉が心に響いたのを覚えている。言葉の中身がどうとかじゃなくて、ただその声援が嬉しかった。でも、心のそこから願う志望校なんて、存在しなかった。

 店の外に出ると、いつも通りの星がきらめく真夜中だった。

 外の空気はまだ冬の寒さを少しばかり残していて、春休みだからと気を抜いて衣替えしたのが間違いだったのだろうか。このまま歩いて家に帰るまでには風邪をひいてしまう。
「コンビニ寄ろ…」
 バイト帰りに通いなれたコンビニに向かう。もうこの道も通る必要がなくなると思うと少しばかり寂しいけれど、そんなしみじみとした感慨さえも今の自分にとってどうでもよかった。

―――願い事をしたことある?

あるよ。短冊にだって、流れ星にだって、四葉のクローバーにだって。

―――その願いは成就した?

しないよ。願い事で叶ったことなんて、一回もない。

―――本当に一回も?

一回くらいは、あるかも。でも、本当に叶えたい願い事は、叶ってないよ。

―――どんな願い事?

とても難しいことだけど、でもとても大切なこと―――――