通勤電車は混んでいる。座る場所はなく、仕方なく吊革に掴まって揺れに耐えていた。
部下が空を指差して言う。
「課長みてください、ナスが飛んでいます」
この間、技術部の男と話をした時に言われた事がある。
「お前の課に可愛い奴居るだろ」
「だれだ」
「ほら、ふわふわしてる奴」
「……佐藤か」
「うん」
「………」
「なんか、俺の事好きになってくれそうな雰囲気。天然な所とか」
「……そうか。良かったな」
「可愛いんだよな」
「そうだな」
「わたさんぞ」
「……は?」
「一緒に仕事してるからって」
「俺はゲイしゃない」
「……知ってるけどよ」

ナスが飛んで居るわけ無いだろ。でも、ちょっと可愛いと思ってしまった。二次元だったら好きだ。
現実にいたら少々めんどくさいけれど。
「ほら、課長」
「本当だ」

佐藤は可愛い。

「すごいですね」
佐藤が微笑む。
「ああ」

ふわふわの髪が眼下で揺れている。
俺は、佐藤をあの男の毒牙にはかけまいと心に誓った。