協会の初期の頃は、市役所が指定する人材が採用されていた。
未経験の会長と局長の運営なのだから『補助輪』としての機能である。
数年すると、正副会長の面接で雇用するようになり、私が就任したころは局長判断で雇用していた。
問題は、局長の代替わりの過程で、正しい雇用法が継承されていない事である。
局長いわく『先代からこの方法です』
いやいや、あなたも元雇用者なら契約ぐらい知っているでしょう?と言いたいのをぐっと抑える。
この違法な状態は、市役所からの情報で、育休の代行に雇った高齢の有期雇用者が大手会社の労働組合の重鎮だった事がわかり、有期終了が問題になる前に書類を確認するよう指摘を受けて発覚した。
補助金の会議に局長と共に呼ばれた。
市職員は我々を前に、何度も局長に確認を入れる。
『雇用契約は済ませていますね?』と
そのたびに、局長は
『はい、ちゃんとやっています』
と言う。
実は、市担当は事務員から情報を手に入れているらしく、求める返事が局長から戻って来ないため追及を続け、ついに真実を吐かせてしまった。
その理由はこうである。
『以前から、そうでしたし、職安の雇用条件に書いた内容で採用しているので、本人も把握しています。ですから問題ありません』
たしかに、期日で退職してくれれば何の問題も無い。しかし、雇用契約書が無ければ、継続の意思を示された場合、こちらに打つ手がない。そして有期雇用について厳密にいえば継続が可能にも関わらず退職させることはできない。つまり育休中の女性の出勤が始まっただけでは理由が弱く、有期雇用者の人件費の捻出が困難など雇用できない理由が必要なのである。
市職員はこう言った。
『雇用契約書がないのは労基上の違反である、違反のある組織に補助金は出せない』
雇用者全員の雇用契約書を新たに作成し、市が確認するという義務が課せられた。
それだけではなかった、彼等にはもう一つ、腹にとどめた怒りがあった。
今まで、必要なメールや書類の返事が局長から帰って来ないことを叱責された。
『どう考えているのか?放置しておけば良いと考えたのか?』
市の課長が自ら詰め寄る。
局長は素直に罪を認めた。
しかし、この件については、これからも継続的に悩まされる事になる。彼の病についてAIに何度も相談したりもするのだ。
会議の後、課長がそっと言う
『局長に辞めてもらったほうがいい』
係長も言う
『彼が退職した穴は、我々が前面的にサポートする、心配ない』
私も返した
『解雇?どうやるんです?』
解雇は簡単ではない。しかも66歳で給与は28万円、9時―6時勤務で土日休、イベントがある場合は代休だ。私よりも条件が良い。身分は管理職で経営も包括する役割だが、本人は事務主任程度に自己認識を留めているようである。
そんなわけで、最近、市も理事会に経営を依存する傾向にある。理事会はそもそも経営の監視役で実行者ではない、日常に仕事を持っている我々には現場を管理できない。そんな言葉を話の間に挟みながら、この問答は平行線のまま終わった。
本年度もすでに5ヶ月がすぎ、入金が4ヶ月も遅れている、現在は委託事業の入金を一時的に使って凌いでいるが、それも来月までに入金がなければ事務所を閉める決断が必要だ。
今窮地にいる。
いや窮地と思っているのは私だけで、会長も局長も『だれかがどうにかしてくれる』と思っている印象がある。いわば大物なのだ。
ほとんどの組織は『組織図』通りには機能していない。常に、考える人が会社を回し、考えられない人は労働者でないかぎり『余剰人員』なのだ。時として衰退する会社では、この余剰人員が昇進する、その理由は「考える人」を現場に残さなければならないからである。
追加で書いておくが、
局長を含む9名の雇用契約書は出来上がった、局長によると『ChatGTPで作った』との事、AI特有の曖昧さを調整するよう指示を出したが、提出を受けた市職員は『だれが作ったんですか?』苦笑した。苦笑の原因は私の指摘が修正されていなかった事にある『ChatGTPに作らせたと言ってました』と伝えた。
平社員の私は局長から「なにもしなくても、長たる位置に座れる」事を学ばせてもらった。現在の会社で現場に置かれている理由も理解できた。