官僚はなぜ仮説思考を使わないか | 元官僚戦略コンサルタントのブログ

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某省でキャリア官僚として5年間程度勤務し、その後戦略コンサルタントに転じた著者が、官僚からコンサルへの転職活動を具体的に紹介するとともに、日々の仕事や生活の中で日本経済について思うこと、また読んだ本の書評などを書いていきます。

少し間が空いてしまいました。


さて、前回に引き続き、仮説思考について書きます。


コンサルの仕事では、仮説思考がきわめて重要になります。

企業が抱える問題の本質は何なのか、その原因は何なのか、それに対する打ち手は何か。


いずれも最初から答えが分かっているわけではありません。したがって、答えのわからない問題一つひとつに対し仮説を立て、それを情報収集や分析によって検証していく必要があります。
なぜ仮説を立てるのが重要かと言えば、それにより答えにたどり着くまでの時間が短縮されるからです。タイトなスケジュールの中で仕事をこなすコンサルタントにとって、素早く答えに辿りつくための仮説思考は、常に意識しておかなければならないことです。


他方、官庁の仕事では、ほとんど仮説思考が意識されることはありません。

この理由としては、次の2つが考えられます。


まず、答えがあらかじめ決まっている仕事がかなりの割合占めること。
中央官庁の仕事のうち、アイデアや発想を必要とする業務は、それほど多くはありません。中央官庁=行政の主たる役割は法律の「執行」だからです。中には政策立案のようなアイデアや発想を要する仕事もありますが、マジョリティではありません。
法律の執行とは、法律という決められたルールにのっとって権限を行使することなので、「答えを見つけるために仮説思考を働かせる」という頭の使い方がそもそも不要なわけです。


第二に、答えがベストな解であるかどうかを重視しないこと。
国の政策立案は、どちらかというと供給側の論理で行われます。つまり、各省庁が、「こういう政策を作るべきだ」という思い込みで政策をつくることがしばしばあるということです。また、最終的には政治家(与党、国会)の了承を得る必要があるため、あらかじめ了承が得られそうな答えを作ろうとします。「正しい政策は何か」と虚心坦懐に模索するのではなく、あらかじめ決められた落としどころにもっていく。したがって、仮説思考が不要となります。


なぜこうした違いが出るのかと突き詰めて考えていくと、結局「顧客」をどれくらい意識しているのかの違いのように思われます。


コンサルタントは、プロジェクトがスタートしてから終了するまでの間、クライアントと実際に会い、何度も打ち合わせを重ね、アウトプットを出していきます。クライアントの顔が見えるからこそ、そしてまた巨額のフィーをもらうからこそ、ベストな解を追求していきます。
一方で官僚には、はっきりとした「顧客」がいません。当然、建前としては国民が顧客です。しかし、現場レベルで国民の利益をリアルに意識しながら働いている官僚はあまりいないというのが私の実感です。