元官僚戦略コンサルタントのブログ

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某省でキャリア官僚として5年間程度勤務し、その後戦略コンサルタントに転じた著者が、官僚からコンサルへの転職活動を具体的に紹介するとともに、日々の仕事や生活の中で日本経済について思うこと、また読んだ本の書評などを書いていきます。

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コンサルに転職して一番驚いたのが、パワーポイントを作るのを専門にお仕事されている方がいらっしゃることです。


戦略コンサルではない知人数名にこの話をしたところ、いずれも少し驚かれました。やはり、パワポの専門部隊がいるのは戦略コンサル会社特有のようです。


「パワポを専門に作る人って何?」と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょうから、少し詳しくご説明します。


戦略コンサルの最終的なアウトプットはパワーポイントで作られた報告書です。弊社では、大体30枚くらいにまとめます。標準的なプロジェクト期間は3か月程度ですが、その3か月間コンサルタントが調べ、インタビューで情報を集め、そして考え抜いた成果をその30枚の中に結晶化させるわけです。3カ月のプロジェクトで数千万円いただきますから、その30枚のパワポ資料は数千万円の価値があるということになります。


このように、最終的に成果をパワーポイントに結実させなければならないため、コンサルタントは原則としてパワポで資料を作ります。当然、社内での議論用のメモはワードで作りますし、また定量分析には当然エクセルを使いますが、他の業種、職種に比べると圧倒的にパワポの使用率は高いと思います。

そこで、パワポの専門部隊が必要になるわけです。


戦略コンサルファームには、各ファームごとにパワポのフォーマットが存在します。ひな型とも言えるでしょうか。お客さんに見せても恥ずかしくないように、きっちりとフォーマットを揃えるわけです。コンサルタント自らもパワポで資料を作りますが、フォーマットの細部を調整したり、あるいは図表を見栄え良く整えたりするところまで自分で行うのは、ものすごく時間がかかります。コンサルタントの存在意義は「考え抜くこと」にありますから、こうした枝葉の作業に極力時間を取られないよう、専門部隊の方がいらっしゃるわけです。この方たちのパワポのスキルにはびっくりします。びっくりするくらいきれいに色調、パーツの配置、強調部分などを仕上げてくださいます。私はどちらかというと横着な方なので(笑)、手書きの図解をお渡しして仕上げてもらったり良くしています。


当然、夜中に作業することもありますから、自分でもきれいに仕上げられるスキルも身につけておく必要がありますが、個人的にはこの超合理的な役割分担の仕組みを重宝し、最大限活用していきたいと考えています。


ちなみに、前職の官庁には、当然こんな仕組みはありませんでした。

官庁が作るパワポは、文字だらけで読みづらく、クオリティも低いです。しょうもないパワポを作るために、日夜官僚たちは残業をしています。


官庁にも、コンサルティングファームのようにパワポ専門部隊を雇えば、官僚のリソース配分も変わり、もっといい政策が作れるのになと思ったりします。

少し間が空いてしまいました。


さて、前回に引き続き、仮説思考について書きます。


コンサルの仕事では、仮説思考がきわめて重要になります。

企業が抱える問題の本質は何なのか、その原因は何なのか、それに対する打ち手は何か。


いずれも最初から答えが分かっているわけではありません。したがって、答えのわからない問題一つひとつに対し仮説を立て、それを情報収集や分析によって検証していく必要があります。
なぜ仮説を立てるのが重要かと言えば、それにより答えにたどり着くまでの時間が短縮されるからです。タイトなスケジュールの中で仕事をこなすコンサルタントにとって、素早く答えに辿りつくための仮説思考は、常に意識しておかなければならないことです。


他方、官庁の仕事では、ほとんど仮説思考が意識されることはありません。

この理由としては、次の2つが考えられます。


まず、答えがあらかじめ決まっている仕事がかなりの割合占めること。
中央官庁の仕事のうち、アイデアや発想を必要とする業務は、それほど多くはありません。中央官庁=行政の主たる役割は法律の「執行」だからです。中には政策立案のようなアイデアや発想を要する仕事もありますが、マジョリティではありません。
法律の執行とは、法律という決められたルールにのっとって権限を行使することなので、「答えを見つけるために仮説思考を働かせる」という頭の使い方がそもそも不要なわけです。


第二に、答えがベストな解であるかどうかを重視しないこと。
国の政策立案は、どちらかというと供給側の論理で行われます。つまり、各省庁が、「こういう政策を作るべきだ」という思い込みで政策をつくることがしばしばあるということです。また、最終的には政治家(与党、国会)の了承を得る必要があるため、あらかじめ了承が得られそうな答えを作ろうとします。「正しい政策は何か」と虚心坦懐に模索するのではなく、あらかじめ決められた落としどころにもっていく。したがって、仮説思考が不要となります。


なぜこうした違いが出るのかと突き詰めて考えていくと、結局「顧客」をどれくらい意識しているのかの違いのように思われます。


コンサルタントは、プロジェクトがスタートしてから終了するまでの間、クライアントと実際に会い、何度も打ち合わせを重ね、アウトプットを出していきます。クライアントの顔が見えるからこそ、そしてまた巨額のフィーをもらうからこそ、ベストな解を追求していきます。
一方で官僚には、はっきりとした「顧客」がいません。当然、建前としては国民が顧客です。しかし、現場レベルで国民の利益をリアルに意識しながら働いている官僚はあまりいないというのが私の実感です。

官庁の仕事とコンサルティングの仕事で一番違うと感じるのは、「仮説思考をどれだけ働かせるか」という点です。


官庁では仮説思考はほとんど使いませんでしたが、コンサルティングでは仮説思考を徹底的に働かせる必要があります。なぜこうした違いが出るのか?

この点については、次回のエントリーで詳述します。


今回は、そんな私が唯一官庁の仕事の中で仮説思考の大切さを知ったときのエピソードを紹介したいと思います。


それは、白書を執筆する仕事をしていたときのことです。

白書は、各省庁が所管の政策分野の動向をまとめて年に1回発行する書籍です。大きな本屋なら、白書がまとめておいてあるコーナーがあるので、大体イメージはわくかと思います。白書はたくさんの種類が出されています。防衛白書、経済財政白書、労働経済白書、エネルギー白書などなど。その総数は数十に上ります。


あるとき、私は、ある白書を執筆する部署にいました。その中で、企業に対するアンケート調査を設計する仕事を担当しました。アンケートを設計するのはそのときがはじめてだったので、どういう質問項目を入れればよいのか、なかなか検討がつかぬまま作業を進めていました。


素案を上司に見せると、「このアンケートでは、どんな結果が得られるのか、まったく想像がつかない」とのダメ出し。そして、「アンケート調査で立証したいことをまず書き出して、それを立証するためにはどういう質問項目が必要か、という逆転の発想で設計してみろ」との指摘をもらいました。


この指示を受け、私は、アンケートで立証したいこと、すなわち仮説をまず紙に落とし込み、そこから逆算的に質問項目を作成しました。すると、アンケートの調査票は驚くほどすんなりとできあがりました。


当時は仮説思考という言葉すら知りませんでしたが、今から思い返すと、これが最初に仮説思考の大切を実感した経験でした。