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BLUE SKY COMPLEX

オンラインゲーム「kingdom of chaos」の住人、STRARFの個人ブログです。何の事かわからない方はお手数をおかけしますがブラウザバックかタブを閉じる事をお奨めします。

幼馴染の僕等は、いつでも一緒だった。
小さな頃から、今ここに至るまで。

来週、僕等の中から一人、夢を叶えるために此の田舎から遠く離れた都会へと向かう。

彼は小さな頃から僕等をいつも引っ張ってくれたリーダーだ。

いつでも熱く、風のように自由な人で、みんなも彼を良く慕っていた。

秘密基地で開いたささやかな送別会。
大事な仲間の門出を祝う、僕等なりの儀式。

寂しい気持ちがない訳じゃないけど。

「一生皆で一緒に居られるわけじゃない」

そんな事は、前々から分かっていた事だし。

「いつかこんな日が来る。」

って、覚悟はしていた事だ。



「もし、俺達みんなが夢を叶えて、それぞれバラバラになったとしても、俺達は仲間だ。
ずっとずっと掛け替えの無い、仲間だ。」

「約束だからな。」

と、旅立つ彼は僕等に云った。



送別会が終わり、みんなが帰った秘密基地の戸締りをする僕に

「私の手には何も無いの。」

一番身近な幼馴染の彼女は、そう云うと寂しそうに笑った。


僕が不思議そうな顔を向けると彼女は続ける。

「私にはね、夢が無いんだ。あなたや皆みたいな、素敵な夢。」

すっかりと日が暮れて、宵の明星が綺羅綺羅と瞬く瑠璃紺の空を見上げる。
そして、其れを掴もうとするように一生懸命に手を伸ばす彼女の横顔は、とても儚く美しかった。
気付かれないように彼女の顔を盗み見ると、少し胸が高鳴った。


彼女は元気印が取り柄の明るい女の子だ。
誰かが沈んで居たら、元気になれるまで其処に居てくれる。
自分の元気を分けてくれる。そんな女の子だ。

今日の送別会でも、別れの空気に沈みそうになるみんなを一番張り切って盛り上げていたのは彼女だ。


「小さな頃は、本当に不思議だったよね。
大好きな事も得意な事も、てんでバラバラな私達が、どうして友達になれたんだろう?って。」

本当にそう思う。僕等の個性はまるで違う。

「もちろん一緒に居て、唯々楽しかったのは一番の理由だけれど。
其れだけじゃないモノが在ったよね。自分には分からない事だからこそ、尊敬し合えたのかな?」

好きな事、得意な事。
嫌いな事、苦手な事。

違っていて、でも違っていたからこそ理解しようとし合えて。
だから僕等は、自分に欠けたモノを補い合うように、傍に居た。


「其れ、彼の引越しが決まってから、ずっと考えていたの?」

沈黙すると二人の間に流れてくる焦燥感を嫌って、僕は言葉を投げかける。

「うーん。ホントはね、進路調査のプリントを学校で貰った時から、考えてはいたんだ。
唯、彼の引越しで私達のモラトリアムが終わっちゃうんだって実感した時、そう思ったかな。」

云い終えると俯いてしまう彼女に「ふーん。」と返しながら、僕は必死に後に続く言葉を考えていた。

遥か遥か高い空の、其のまた向こうに在る星。
其れを見上げるのも、手を伸ばすのも止めて、俯き足元を見る彼女。

皆の前で何時でも元気な彼女と違い、何だか今は少し小さく見える。

彼女の足元には、小さく、可愛らしい花が揺れている。
幼い頃は秘密基地の傍に咲く此の花で、良く指輪なんかを作って遊んだっけ。

花はあの頃と変わらず此処に在る。

多分、僕等が此処から居なくなっても咲き続けるんだろう。

また彼女の方を盗み見ると、彼女も自分の足元で風に揺られる花を見つめていた。


「多分、さ」

僕の足元に咲く其の花を一本手折ると、所在なさげに揺れる彼女の手を取る。
そして彼女の白く細い薬指に、其れを巻きつけて花指輪に。

「夢を追いかける人だけが、偉い訳じゃないよ。」

視線を感じて何となく照れ臭くなりながら。

「空の手だからこそ、誰かに手を差し伸べられるんだって、思う。
夢を叶えようとする誰かの隣で、其の夢を支える事って同じ位凄い事じゃないかな?
いつも僕の夢を、笑わないで聞いてくれる、みたい、に・・・」


云いながらどんどん恥ずかしくなってくる・・・こ、此れ以上は、無理だ・・・!


僕の表情を伺おうとじっと見詰める彼女の視線を感じる。

彼女が今どんな表情をしているか、気にならない訳ではない。
だけど、何より気恥ずかしさと、知ってしまう恐怖が上回っていた。

緊張して握っていた手に、僕の汗が滲んでくるのを感じると、咄嗟に手を解こうとする。

一瞬、離れた二人の手。

だけど、彼女はすぐにもう一度、僕の手を掴んで云った。

「ま、待って!え、ええと、励まそうとしてくれて、ありがとう!其れと、何だか愚痴っちゃってごめんね!
其れから、えっと、ええと・・・その、今の言葉が、どういう意味か・・・聞いても、いい?」

解こうとした手を今度は彼女から掴まれ、驚いて思わず見合わせた彼女の顔は耳まで赤く染まっていた。
僕も多分、似たようなモノだろう。

今なら「一般論だよ」とはぐらかす事も出来る。
彼女も「ビックリしたよ!」と合わせて、忘れる努力はしてくれる、と、思う。

だけど、小さな頃から今此処に至るまで。
ずっと隣に居た彼女の姿が頭の中をぐるぐると巡る。

いつからそうだったかなんて分からないし、そんな事どうでも良い。
ただ、いつからか心の中にはずっと、彼女が居た。

此の星空を切り取った様に輝く、大きな瑠璃色の瞳も
風に流れる、柔らかく綺麗な其の髪も
実は不器用で、よく怪我をしている小さな手も

秘密基地からの帰り道はいつも泣きそうだった寂しがり屋の君も
何時だって強がりながら後から怯える本当は臆病な君も
なのに誰かの為に一生懸命になれる優しい君も

朝寝坊な僕を、文句を云いながら毎朝起こしに来てくれる処も
好き嫌いの多い僕の、好きな物ばかり詰めたお弁当を毎日作ってくれる処も
そして何より、夢見がちな僕の話を、馬鹿にしないで真剣に聞いてくれる処も



君がずっと傍に居てくれたから、僕は今日の今日まで迷わないで夢を追って来られたんだ。

そして其れは此れから先も。


瞳と瞳で見つめ合う。

君は僕の次の言葉を、震えながら待っている。

もう誤魔化さない。

今、万感の想いを込めて・・・!














「ぼ、僕は、君がひゅきにゃんだ!!」














彼女を見ると、驚いて目を丸くしている。


そして一瞬の間の後「ぷっ」と吹き出すと


「あっはははははっ! もう! ホント、こんな大事な所で噛んじゃうなんて!あはははははっ!!」


大爆笑である。


自分から云わせておいて失礼極まりない、とは思うが確かに一世一代の場面で噛んでしまう自分は何とも情けない。
穴が無いなら自ら掘ってでも埋まりたい気分だ。


一頻り、笑いに笑うと彼女は云う。

「はぁー、はぁー・・・。もう、何だか余りにもあなたらしくて笑っちゃったよ・・・」

そして目の端に浮かんだ涙を指で拭うと

「ね、今の、ホント?」

と、真っ直ぐ僕を見ながら云った。

「じょ、冗談であんな事云えないよ。」

気恥ずかしさに逃げ出したくなりながらもそう伝えると、「あなたの性格なら、きっとそうだね」と彼女は満足そうに微笑んで。

「うわぁ・・・どうしよう?」と何とも返答に困る言葉を呟いた。


そうして暫く自分の指に巻かれた花を見つめながら、たっぷり五分はそうしていただろうか?

無言だった彼女が一言、

「もう一回、今度はちゃんと云って・・・?」

と、云った。


本当は照れ臭いし、気恥ずかしさから走って逃げたい気分だ。

だけど、今度こそはしくじらないように、頭の中で何度も反芻した後


「君の事が、好きだ。ずっと隣で、僕の手を握っていて欲しい。」


今度こそ噛んだりする事なく、真っ直ぐに想いを伝える。
今僕の隣に居る、誰よりも隣に居続けて欲しい人に向かって。


彼女は涙が浮かんだ瞳で僕を見つめる。

そして


「此の先もずっと、あなたの隣に居させてください・・・、此れからも、よろしくお願いします・・・」


其処まで云うと涙を堪え切れなくなったのだろう、顔を伏せて泣き出してしまった。

何だか一緒になって泣きたくなりながら、両手で顔を伏せたまま泣く彼女を、包み込むように抱き締める。






パーンッ!! パーンッ! パパーーンッ!!!



突如鳴り響くクラッカーの音。

僕と彼女を目掛けて降り注ぐ派手な色の雨。

煙る火薬の匂いと共に、ワラワラと秘密基地の陰から現れる幼馴染の仲間達。


「おめでとう!やっと想いが通じ合ったんだね!」

「いやー、コイツが噛んだ時はどうなるかと思ったぜ!」

「花の指輪で文字通り『花嫁』って事?!」

「あーぁ、もし振られてたら残念会を開いてやったのになぁ。」




思い思いに好き勝手な事を云いながら、ぞろぞろと顔を出す彼らを見て




僕は彼女の手を掴むと、全力疾走で其の場から逃げ出した。

此の先もきっと変わらず続いていく、お節介な友情達を置き去りに。

恥ずかしさと、気まずさと、照れ臭さと。

僕の夢と、君の手の温もりを引き連れて。







君の手は、空の手。

僕に向かって差し伸べられた、僕の帰る場所。