さて、先ずはさっさと着替えないと。
自室の鍵を開いて、扉を開く。
おっとっと、お客様から先に入室してもらわないとね!
「いらっしゃいませ!どうぞ私の世界へ。」
「あはは!それじゃ、おじゃましま~す!」
れりりんは部屋に入ると「わー!」と楽しそうな声をあげた。
「なんか、思ってたよりピンクだね!」
「あはは、うん、自分の部屋なら似合わなくても誰にも迷惑かけないからね。」
「ふーん・・・でも、似合わなくないのになぁ」
「ありがとう。さて、着替え出しちゃうねぇ。」
ガッコのカバンを適当に机の上に置くと、クローゼット漁り始める。
れりりん、可愛いから私だと微妙なコレも似合いそうだなぁ。
いやいや、それならこっちの方が!・・・うーん、悩むなぁ。
クローゼットの前でうんうん唸りながら悩んでいると、いつの間にかれりりんが後ろに立っている。
「わっ、結構フリフリな服も持ってるんだね!らーふちゃんも着れば良いのn」
「Σいやいやいやいや!似合わないから!残念系女子だから!」
かぶせ気味に勢い良く捲し立てる。
よし、コレが良いかな。
自分は絶対着ないであろう、白いワンピース。
スカートの裾がふわっと膨らんでて可愛いんだ。
「れりりん、コレで良いかな?」
「うんうん、ありがとね!」
そして私はいつも通り、動きやすさ重視の黒上下!
「よーし、着替え着替え!それからご飯にしよう!」
「わー!なんかご飯凄そうだなぁ。実はちょっと楽しみにしてたんだ!」
「あはは!期待に添えてると良いんだけど!」
言いながらブレザーのボタンを外すと、れりりんも続いて着替え始める。
「あ、明日の学校に着ていくブラウスは、私のでいいかな?」
「うんうん。問題ないよー、ありがとね。」
スカートも脱ぐ。・・・白か。うんうん予想してた通り超可愛い系だ。
心の中でガッツポーズしながら、私もスカートを下ろす。
「Σ!? らーふちゃん、ガーターベルト付けてるんだ・・・?!」
「うんうん、オーバーニーだから落ちないように付けてるんだ。
学校ではスカートの丈で見えないんだったね、そう言えば。」
「へぇ~・・・リボン付いてて可愛いね!下着も黒だし、らーふちゃんセクシー系?」
「Σへっ!? ま、まぁホラ!誰に見せるわけでもないしね!!」
アセアセしながら素早く着替える。
あ、そうだ今のうちにお風呂上がり用のパジャマも用意しておこう。
チェストから新しい下着も取り出して、準備オッケー。
そうこうしてる内にれりりんも着替え終わったみたいだ。
「よし、今の間にかななん先輩の所にも行ってみよう!」
「あはは、良いよ!行こう行こう。」
姉様の部屋の扉をノックする。
「姉様、入りますねぇ」
ガチャッと開くと、姉様は何故か全開に開かれた窓の外を、ボーっと見ている。
着替えは終わってるみたいだ。
隣に立って肩をポンポンと叩く。
「姉様?どうしました?」
「ひゃっ!?」
姉様は肩を震わせて驚く。本当に気付いて無かったみたいだなぁ。
なんだか顔が赤い気がする。気の所為かな?
「ごめんなさい姉様、一応ノックはしたのですが・・・」
「あ、いえいえ!ボーっとしちゃってて気付けなくてごめんなさいね?」
ぱたぱた手を振る姉様。
うーん、なんだか怪しい・・・けど、こういうパターンの時は聞いても答えては貰えないだろうな。
「ま、まぁまぁ!よく似合ってますわ、レリーチェ!」
「う、うん。ありがとう、かななん先輩。」
「それでは、じいや達をお待たせするのもよくありませんし、食堂へ参りましょう!」
胸の前でぽむっと手を合わせると、私とれりりんの背を押す。
うーむむ。っと、気にしすぎても仕方ない。
先ずは夕飯を食べて腹拵え腹拵えっと。
食堂の扉の前で執事さんが待っている。
「ストラーフお嬢様、今日のメインは・・・」
「私は肉で」
「畏まりました。カナンお嬢様は如何致しましょう?」
「妾はお魚が良いですわv」
「畏まりました。レリーチェ様は如何なさいますか?」
「え?僕が選んで良いの?」
姉様と私に聞くれりりんに二人で「うんうん」と頷いて返す。
「じゃあ、僕もお肉で!」
「はい、しかと賜りました。それでは、お席へ案内致します。」
お客様のれりりんは上座へ、私と姉様はいつもの定位置へ。
そして三人での晩餐が始まった。
食べ終わって廊下に出るとれりりんはお腹を撫で撫でと満足そうにさする。
「いやー、夕飯にコース料理なんてホントに凄いんだね!
デザートのレモンのケーキが最高だったよ・・・僕、かななん先輩の妹に生まれたかったなぁ」
「あはは!れりりんはなんとなくこういう食事、慣れてるのかと思ったよ。
お家もかなり大きいみたいだし。テーブルマナーも私より詳しそうだったし。」
「あー・・・いや、うちはもう少し合理性重視と言うか・・・まぁいいんだよ!」
何か頭に思い描いたものをパタパタ払う仕草をすると話題を戻す。
「いつもあんな感じなの?夕食。」
「うーん、そうですわね。日によって中華だったりフレンチだったりは変わりますが、概ねあんな感じですわね。」
「良いなぁ、ホントにこの家の子になりたかったよ。」
「あはは、気に入ってもらえたなら次のお泊り会もお誘いしやすくなったね。」
三人で話しながら部屋に戻る。
今度は姉様も一緒に私の部屋へ。
「食後すぐにお風呂に入るのもなんだし、お喋りでもしてy・・・じゃない!!」
そこまで言いかけてようやくお泊り会の元の趣旨を思い出す。
「デッサン!!」
「「あっ。」」
二人もすっかり頭から抜けていたように同時に声を上げる。
「あ、あぶないところだった!明日叱られちゃうところだったよ!」
「あはは、思い出せて良かった!どうしよう?じゃまになるなら私は外に出てるけど・・・」
「それなら妾のお部屋に移動しましょうか?部屋の主が出ていく理由はありませんわよ。」
「いやいや、ジッと見つめられるのはキツイけど、でもせっかくらーふちゃんのお部屋には立派なピアノもあるし・・・」
れりりんは部屋の隅に置かれたグランドピアノを見ながら言う。
「うん、部活の時みたいにらーふちゃんの演奏を聴きながら描きたいな。だめかな?」
「いえいえ、私なんかの演奏で良いなら全然!」
「『なんかの』じゃないよ。僕はらーふちゃんの演奏が良いんだ。」
れりりんの言葉に照れながら、演奏の準備をする。
天板は少しだけ、開く。
鍵盤蓋を開くと鍵盤カバーを取る。
いつも通りの、いつもやってる事だ。けど、なんとなく自分の部屋に誰かが居るのって緊張するなぁ。
歌うわけでもないのに咳払いを一つして、鍵盤を叩いて音を確認。
うん、調律は狂ってないね。
先ずはいつも練習してる課題曲から。
これならもう楽譜がなくても、全ての音が頭に入っている。
指で鍵盤を叩くと、ピアノは滑り出すようにメロディーを歌い出す。
一曲弾き終わり、余韻が過ぎてから二人の方を見ると、もうデッサンを始めて集中してる。
次、何弾こうか全然考えてなかったなぁ。
楽譜の棚を漁ろうかとも思ったけど、集中して横をうろうろして邪魔するのも何だし、知ってる曲を適当に弾こう。
そして始まるアニソンメドレー。
何のメロディーか気付いた瞬間、二人が「クスッ」と同時に笑った。
それから、どのくらいそうしてたか。
アニソンのストックが切れそうになった頃、れりりんが「出来た!」と言った。
「「わー、お疲れ様でしたー!」」
二人でパチパチと拍手。
「いやーどうもどうも」と照れるれりりん。
「見せて貰っても良い?」
「アハハ、なんだか照れるけど演奏もしてもらったし、お返しだね!」
スケッチブックを開いて見せてもらう。
うんうん!これは間違いなく姉様だ!ふわー、綺麗だなぁ・・・!
感動して言葉が上手に紡げそうに無いから、即興のフレーズで・・・伝われば良いな。
「ありがとありがと!いやぁ、間に合って良かったなぁ。」
「本当に良かったですわ。モデルとしてお役に立てましたかしら?」
「かななん先輩もありがとう!実は目が合う度にドキッとしてました!アハハ」
三人で集中し通しだったから、身体が固まってるよ。
みんなで一緒に「ん~~~・・・」っと背伸びする。
「そうだ、そろそろお風呂に入りましょうか。約束通り、三人で入りましょうねv」
断る理由なんて無い。
私もれりりんも「うんうん」と頷くと、さっき用意しておいたパジャマを持つ。
姉様は「妾もパジャマを用意してきますわね!」と自室へ戻った。
廊下へ出て、姉様が出てくるのを待つ。
「ねぇねぇ、かななん先輩とはいつも一緒にお風呂に入ったりしてるの?」
「いやいや、もうこの歳だしお互い別々に入ってるよ。
・・・色々、悲しくなるし・・・」
遠くを見つめながらしみじみ呟くと、れりりんは「あぁ・・・」と合点がいったように頷いた。
「おまたせいたしまs・・・お二人とも、どうしたんですの?」
「「いえ・・・なんでもないです」」
首を傾げながら「さぁ、参りましょう」と言いお風呂に向かう姉様の後に続く。
脱衣所に到着すると、二人はまるで躊躇いなく脱ぎ始める。
お、おぉぅ・・・やっぱり自信がある人達は羨ましいなぁ・・・
二人ともサクッと脱ぐとお風呂に向かってしまった。
タオル巻いて・・・いやいや姉様に叱られるだろう普通に。
お、女は度胸!バッと脱ぎ捨てると私もお風呂場に入る。
「お、やっと来たね!
まぁ、照れちゃうのもわかるけど、女同士気にせず行こう。」
「う、うん。ありがと、れりりん。」
「ウフフ、タオルでも巻いてくるかと思いましたが、叱らなくても良いみたいですわねv」
「うぅ・・・は、はい、姉様。」
「しかしお風呂まで広いとは・・・これは泳げるな!」
「泳いだら姉様にしからr・・・
「すぃーっ すぃーっ」
「Σって姉様!!」
「ウフフフ、冗談ですわよv」
「かななん先輩ってさ、時々ホントに誰も予想しない事するよね。」
苦笑いしか返せない。
いや、でも姉様のこういう所は私も大好きだけどね、うん。
先ずはザバッとシャワーを浴びる。
それから湯船へ。三人で外を見ながらぼへー・・・っと。
「いやぁ~それにしても、デッサンが今日中に片付いて一安心だ~」
「あはは、なんか声が間延びしてるよれりりん!」
笑いながら言うと「え~?お風呂だからかなぁ~」ってやっぱり間延びしてる。
姉様はやりとりをニコニコ微笑みながら聞いている。
・・・わぁ・・・浮いてる・・・。
何が?それ聞いちゃう?
全力デコピンいっとく?記憶消えるよ?
何故姉妹でこんな格差社会・・・ 神様滅べよ割りとマジで。
さて、先に髪とか洗わせてもらおう・・・って立ち上がったら三人同時とかね。
まぁまぁ、こういうのはよくある。
「あ、私は後でも良いから、どちらかどうぞどうぞ」
「ん、僕も別にまだ湯船でのんびりしてて良いかな」
「では、三人で洗いっこしましょうねv」
「「んっ?」」
「はい?」
姉様は心底不思議そうに微笑んでいる。
そして私とれりりんの背をドンッと押して湯船から出す。
「じゃあ、三人で洗いっこしますか。」
「はいvでは、強かったりしたら仰ってくださいませね」
「はーい」
私は姉様の背中を、姉様はれりりんの背中を。
終わったら順番に交代するそうだ。
姉様は一生懸命れりりんの背中を洗っている。
そして私の目の前では凶器の・・・狂気の?狂喜のボインが姉様の動きに合わせてふにふにフワフワと・・・。
「おっと石鹸で手が滑っちまったァ」
なんて、純度100%の嘘が透けている棒読みの言い訳を、声に出して言いながら姉様の胸を揉んでみる。
「Σきゃっ!?こ、こら!スフィランシャ!だ、駄目ですわよ!」
地、地球上にこんな柔らか物質が在ったなんて・・・
そして自分の胸に・・・くっ・・・!
いや、これは自分にあんな柔らか物質がついていたら、毎日自分で揉んでしまうかもしれない私の事を考えて神が下した苦渋の決断なのかもしれない。
きっとそうだ。そうに違いないんだ。
「それでも羨ましい・・・」
つい口を突いて言葉が零れてしまった。
「もう!スフィランシャったら・・・これはこれで苦労が多いんですのよ・・・?」
「あー、『肩が凝る』ってヤツでしょ!大きい人はみーんな言うもんね。」
れりりんの言葉に私もついつい頷く。
しかし姉様は「違いますわよ・・・」と顔を赤らめながら返す。
「え、違うのですか?姉様。」
「勿論それが無いとは言いませんが、もっと切実な問題があって・・・なかなか可愛いデザインのブラが無いんですのよ・・・」
少し照れながら言う姉様。
な、なるほど・・・! なんて説得力なんだ・・・。
そう言えばこの間もサイズが合わなくなったのを泣く泣く処分していたなぁ。
「ご、ごめんなさい姉様・・・でも羨ましいのは羨ましいです!」
「仕方のない子ですわね・・・。
スフィランシャだってまだ15歳なのですから、まだまだ大きくなりますわよ。
成長曲線なんて個人差が在るのが普通ですのよ?」
「はい・・・」
「さてさて!そろそろ背中流す順番交代しよっか!」
れりりんがスパっと空気を切り替える。
素直に従って場所交代。
今度は、れりりんが私の背中を、私が姉様を。
「で、一番前に来た人間は自分の前の部分を洗う訳ですわね!」
「姉様、いったい誰に説明しt・・・」
「気にしちゃだめだよらーふちゃん!」
気にしちゃ駄目なのか・・・ここは素直に従っておこう。
それにしても姉様は背中もちっちゃいなぁ。
肩は細いし首筋なんて簡単に折れてしまいそうだと思う程。
この小さな背中にいつも心配掛けてしまってるんだなぁ。
ちょっとだけ、自己嫌悪。
私のしゅんとした空気を感じたのか、れりりんが背中から抱きついて来る。
「ま、『悩まない』なんて出来ないけどさ。
いきなり大人になれちゃうわけじゃないからね!
僕らは僕らのペースで歩くしかないよ。」
「・・・フフフv さて、交代の時間ですわよ。」
そして姉様とれりりんが二人で私の背中を洗う。
「あの、なんで私だけ二人がかりなんでしょうか・・・?」
「タイミングの問題ですわねv」
「一人ボーっとするのも手持ち無沙汰だしね!」
「そ、そうですか・・・」
気を取り直して自分の身体を洗う。
なんだかいつもと違うと不思議な気分だなぁ。
それにちょっとだけ背中がくすぐったい。アハハ。
「よし、私も完了です!これで三人とも洗い終わった、かな?」
「じゃ、シャワーで流しますわよ」
「「はーい」」
三者三様、シャワーヘッドを持って流し合う。
しかしここで何もしない程、私は温い女ではない。
自分のシャワーの温度を一気に冷水にまで下げる。
「ひゃぁぁぁぁぁっ!!!?!?」
姉様があられもない悲鳴を上げる。
ククククッ!
そしてパニックになっている間に、サラッと温度を戻す。
「・・?・・・?」
あ、混乱してる混乱してる!ってこっそりクククと笑っていると、私にかかっていたシャワーがいきなり冷水になる。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁああぁぁっ!?!」
物凄い勢いで振り返るとれりりんがそっぽ向いて口笛(吹けてない)を吹いている。
おのれ・・・
即座に自分のシャワーを冷水に変えると、そっぽ向いたままのれりりんの背中にぶっかける。
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
や、やったなぁ!」
そして始まる冷水合戦。
ようやく意味を理解した姉様も参加して、よりカオスな様相を呈する。
で、三人で散々身体を冷やしたあと、また一緒に湯船に浸かる。
「「「ふぃー・・・」」」
冷水でよく冷えていただけに余計に温かさがしみる。
「なんだか小さな子供に戻った気分ですわねv」
姉様が嬉しそうにクスクス笑う。
「そうですね。最近はそれぞれ別に入ってましたからね、お風呂も。
でも、なんだか久々に姉様と姉妹なんだなーって実感しました。嬉しかったです。」
「何だよ何だよー!二人で良い雰囲気作って!僕も混ぜろー!」
れりりんがざぶざぶと湯船に波を立てて抗議する。可愛い。
「あはは、れりりんが居なかったらこの機会も無かったんだから、れりりんが中心でしょ!あはは!」
言いながら私がれりりんに抱きつくと、姉様も反対側から笑いながら抱きついている。
それから、三人で本当に逆上せそうになるくらい、お風呂を堪能してようやく上がる。
「お風呂上がりは牛乳よりアイス派です。」
「然りですわね。」
「右に同じだよ!」
パジャマに着替えて真っ直ぐ冷凍庫に向かう辺り、夏に飼い慣らされて来てるね。
三人共さっきコンビニで買ってきたアイスを食べる。
お互いの買ったアイスの食べ比べは基本だよね!
いや、ダッツ様に勝てるアイスなんて早々無いんだけどさ!
自室に戻るとれりりんはさっそく買ってきたお菓子を広げ始める。
パーティー開きってこういう時にしかやらないから新鮮だよね。
私はウェットティッシュを用意しておこう。
「パジャマに着替えてからオヤツを食べるのって、ドキドキしますわね。
普段なら絶対にしませんし。」
「あー、確かにそうですね。アイスはよく食べてますが。」
「何事も経験経験!そしてどうせ経験するなら楽しい事の方がいいってね!」
「そうですわね。今日は無礼講でパジャマパーティーですわ!」
姉様のこういう融通の聞く砕けた性格、大好きです。
お菓子を食べながら他愛もない話をする。
靴箱にラブレターが入ってた事とか、期末の平均点が上がった事とか。
購買部でメロンパンならぬスイカパンを売り始めただとか、夏休みの計画とか、今テレビでやってるドラマが微妙だとか。
あの少女漫画が今一番良い所なんだとか、先日告白してきた男がとんでも無いナルシストだったとか。
でもやっぱり三人とも興味が在るのは恋愛話だと思う。
この年頃で異性に興味が無い、って人は多分珍しい。
クラスにもカップルって呼ばれる人達がチラホラ出てくるしね。
私は校内の噂的に先ず男の子から相手にされることはないけど、姉様やれりりん程可愛いのに告白を受けたことないってのはあり得ないと思う。
せっかくの機会だから、単刀直入に聞いてみる。
「姉様とれりりんは告白されたこととか在るでしょ?」
姉様は顔を赤くしてしどろもどろになっているし、れりりんはなんだか苦笑いを浮かべている。
「わ、妾はその、まだ学生の身の上ですし、そういうのは早いと思いますのよ?」
顔を赤くしながら手を顔の前でパタパタしながら言う。
多分、告白される事は在っても尽く切り捨ててるんだろうなぁ。
でも、姉様が変な男の人とお付き合いを始めるのはそれはそれで嫌だし、全然良い。
「僕は、んー・・・好きになれそうな人が居ない、って感じかな。」
「理想というか条件があるって事?」
「好きなのに好きだ!って自分で言えない人はちょっとね。少なくとも言わせようとする相手は無理だなぁ。」
なるほど。意思を貫く力って事かなぁ。
最近は「草食系」とか言って流されるタイプの人が増えてるみたいだし。
私も個人的にそういう人は無理かな。多少強引でも決断力のある人が良い。
私自身が優柔不断だからね。
周りから「草食系だねー」って言われて「そうかな?」って言うならまだしも、「俺、草食系だからさぁ」なんて自己主張してる輩には引くレベルだよ。
「らーふちゃんは?やっぱりあの先生?」
「うんうん!センセ大好き!
泣きそうな時にはいつも頭を撫でてくれるし、変な目で見ないでくれるし!」
「うーん・・・それさ、なんか前々から思ってたんだけど、ホントに男女っていうか恋愛としての好きなの?
聞いてるとブラコンのそれに近いというかさ・・・爽やか過ぎるんだ。」
れりりんは、決して馬鹿にする風ではなく、疑問に思っていたことをぶつけるように言う。
「例えばさ、らーふちゃんはあの先生と性的な関係になったりとか、想像したことがある?
恋愛として好きでずっとお付き合いしていけば、いつかそうなるのは全然荒唐無稽な話じゃなくて自然なことだよ。」
「えっ・・・!
ど、どうなんだろう?!少なくとも今までは一回も考えた事がなかったかも・・・」
「まぁ、単純にらーふちゃんが初心で、今までそういう考えが浮かばなかっただけかもしれないから、これは一つの目安ね。
あくまで例の一つだからさ。僕もらーふちゃんの気持ちを否定したいわけじゃないんだ。」
「う、うん・・・それは分かるよ。
でも、そっかぁ・・・想像したことも無かったけど、お付き合いしていけばそんな事も在るんだよね・・・」
「スフィランシャはあの先生とそうなった時に、『純粋に嬉しいだろうな』とか、思いませんの?」
「うー・・・本当に想像できないです・・・デートとかは、出来たらいいな、と思いますが・・・。
キスとかそ、そういうのとかは・・・あれ?なんか、違う?うーわっかんない・・・」
「ま、同じ時間を過ごして経験をしないと分からない気持ちもあるだろうし、今はこの辺にしておこう!」
「う、うん・・・」
考えた事も無かったなぁ。
兄妹の感情に近い・・・そうと指摘されてしまえば、確かにそんな気もしてくる。
「一緒に居たい!」とか「優しくして欲しい」とは思うけど、それは求めてばっかりの気持ちだ。
恋愛感情とは違う?・・・のかなぁ?
思案していると、姉様が「もう遅いですし、今日はそろそろ寝ましょうか。」と言った。
私もれりりんも頷くと、後片付けをして、歯磨きも済ませて、三人でベッドに入る。
なんだか隣に誰かが居てくれると、安心してすぐに眠ってしまいそうだ。
小さい頃は、寂しくなったり悲しくなったりすると、こうして姉様のベッドに潜り込んだりしてたっけ。
姉様は何も言わないけど、ただ背中をトントン叩いてくれてたな。子供をあやすみたいにってそのものズバリだけど。
ふわぁ~・・・。
私は、「恋愛感情ってなんだろう?」って考えながら、瞼を閉じた。