「ヘヘヘ・・・もう食べられないですってぇ・・・えぇ?そっちのお肉もですかぁ・・・仕方ないですねぇ・・・ヘヘヘ・・・ん、んぅ・・ふぇ・・・?」
彼女がよだれを拭いながら目覚めた時、周りには戦特有の怒号や大勢の人間が鳴らす地響きすら伴う足音の中だった。
「あれ・・・ボク、どうしてこんな所で寝てるんだろ・・・?」
まだ呆けの抜けない頭をコツコツと拳で叩きながら状況の把握に努める。
「あぁ、そうか・・・今は戦時下で、ボクはいの一番に飛び出して奇襲しかけて・・・其れで・・・?」
城壁を殴って以降の記憶が、どうにも思い出せない。
まるですっぽりと抜けてしまっている様に、どうして自分が此処で眠りこけて居たのかが分からない。
とは云え戦場の真ん中で悠長に呆けている暇など無い。
突っ立っていれば相手にとっては魔法や矢の良い的だろう。
「んー・・・よし、とにかくまずは陣地に戻ってから・・・って、えっ!?」
立ち上がろうとしてようやく自分の身体の変化に気付いたようだ。
手の平の小ささ、服の大きさ、ブーツのサイズですら身に余っている。
「ちょっ、えっ!?なんで!?」
両手の平を目の前で何度ぐーぱー握り直してみても、大きさは元に戻らない。
「新種の魔法か、呪いの類?」などと考えながら、まずは下着の『紐』を落ちないように縛り直す。
「リーチェ、エージュの陣営に戻ろう・・・って、重っ!?
もうっ!筋力も子供並みなのっ!?」
ベアトリーチェがまるで人型に戻る気配を見せない所を見るに、オドも其れに準じているとすぐ察しは付いた。
「でも、だからってこんな所にリーチェを置いていく訳にはいかないのですっ!」
気合一発、両手で頬をパチーンッ!と叩くと、痛みでじんわり涙が滲んだ。
「痛覚も、か・・・」
だぶつくブーツを脱ぎ捨て、服の襟元から肩が抜けないように固く結び、既に不要になった『上の下着』を投げ捨て、
「よしっ!!」
もう一度気合を入れ直し、戦場の真ん中、控え目に見ても成人男性並の重さが在りそうな無骨な鉄塊を引きずりながら、一歩ずつ歩き始めた。
背後に迫る影に気付かないままに。