このコラムについて 


このコラムは、元官僚として霞ヶ関・永田町界隈でお国のために汗を流していたくま先生が、なかなか外からはうかがい知れない公民の裏側を面白おかしくお伝えするものです。

 

    

コラム

元官僚のくま先生がこっそり教える

公民の裏側


(毎週土曜日更新)

目次

 

第1回 国会議事堂で迷子!?


第2回 恐怖の国政調査権-質問主意書とは


第3回 国会解散で万歳したいのは誰?


第4回 真の立法機関はどこ?


第5回 ありえないぞ国会研修!①


第6回 ありえないぞ国会研修!②


第7回 漢字が苦手な総理大臣!?


第8回 根回しとはー小〇進次郎に

気に入られたくま先生


第9回 スペルミスが命取り!?

条約交渉の現場


第10回 まるでシンゴジラの世界…

官邸危機管理センター


第11回 ここまでする!?がんば

れ黒子の官僚たち!
 


恐怖の国政調査権 

 

公民で真っ先に習う重要概念である三権分立


では、国会が内閣に行使できる権利はなんでしょうか?


ここにあるような、総理大臣の指名や不信任ももちろん重要ですが、内閣の一員として行政を担う官僚にとって最も恐ろしいのが、「国政調査権」なのです。どういうことでしょうか?



国政調査権の行使ー質問主意書とは 


国会議員が国政調査権を行使する手段は、ちょっとした資料のお尋ねもののようなカジュアルなもの(資料要求)や、官僚を呼び出して(官僚から)レクチャーを受けるもの(レク要求といいます)など、色々ありますが、特にこれをやられると官僚が困ってしまうのが、「質問主意書」による文書での説明要求です。



これらのサイトにこれまで出された質問主意書のアーカイブがあります。

質問主意書がやっかいなのは次の2点に集約されます。一つずつ見ていきましょう。


 各省庁の見解ではなく、「内閣」としての見解が求められる=閣議決定が必要=プロセスが死ぬほど大変


まずはこれです。通常の資料要求やレク要求が、各省庁の単独判断で行える(=所掌事務の範囲内なら、課長のOKさえあればすぐにでも対応できる)のに対し、質問主意書は「内閣」としての答弁を求められるため、その答弁は(形式的ですが)「閣議」にかけられる必要があります。


※よくニュースでやっているこれが「閣議」です。


閣議に案件をかけるというのは、それはもう大変な作業で、私がいたころは、閣議にかけるためには特別な用紙(「日本国政府」と記された青い枠のある紙。通称「青枠」)を使う必要があり、しかも余白がミリ単位で決まっていて、プリンタの不調や公印の押しミスで余白が1ミリでも規定からオーバーすると再提出でした。


また、この用紙はキリで穴を開けてこよりを通して綴じなければならないという謎ルール驚きもあり(ただし質問主意書の場合は簡素化のためホチキス止めでOK)、結び方までご丁寧に指定されていました。手先の不器用なくま先生、これがいつもできずに部下にやってもらってました…凝視



※青枠。河野太郎議員のXより引用したものにくま先生が説明追記


電子での提出は不可なので、余白が1ミリでも規定からズレていると、差し替えのため、遠く離れた自省庁と内閣総務官室との間を走って往復する羽目に…これ、2010年代(しかも後半)の話ですよ!


※ちなみにこの青枠、河野太郎元国家公務員制度担当大臣の在任中に廃止されたそうです。控えめに言ってGood Jobだと思います。



質問主意書は、そういう形式的なめんどくささだけでなく、例えば主意書の質問が当たり、私が答弁作成担当になった場合には、自分の作った答弁案を


担当補佐→担当企画官→担当課長→総括係長→総括補佐→総括課長→官房審議官→局長→総務課係長→総務課副長→総務課長→総括審議官→省名審議官→事務次官→政務官→副大臣→大臣→内閣総務官室→閣議


と承認決裁をとっていく必要があり(しかも基本的に一人ひとりアポをとって対面でご説明驚き)、さらにこれと並行して内閣法制局という法の番人による厳格な審査も経る必要があるのです。


このプロセスは、実は政令を一本つくるのと形式上は同じです(政令=法律の委任を受けて内閣が定める命令。信号の色や制限速度なんかも実は政令で決められています。それくらい大事なことを決める法令です)。


もちろん、政令の場合は上記に挙げた人たちが自分ごととして真剣にチェックするのに対し、主意書の場合は(法制局以外は)そこまで真剣にみません(担当課の判断を尊重する)。また、時間の関係で一部省略することもできるという違いはありますが、それでも本来は半年や一年かけてやるようなプロセスを、わずか数日でこなさなければならない負担は相当のものです。



 締切までの時間が短すぎる


上記に書いたような膨大なプロセスを、質問主意書はわずか「質問してから7日以内」で回答しなければなりません。


7日もあればできるのでは…と思う方もいるかもしれませんが、ここでやっかいなのが、上記プロセスの最終手続きである「閣議」が毎週2回(火・金)しか開かれないということです。さらにこの7日は土日も含まれるということです(官僚に土日はないってか…鬼畜すぎる…無気力無気力)。


例えば木曜日の夜中に質問をされた場合には、内閣は翌週の木曜日中に回答する義務を負いますが、閣議は火・金しか開催されないため、答弁案を火曜の閣議に間に合わせる必要があります。とすると、内閣総務官室には遅くとも前営業日=前週の金曜日午前中には先ほどの青枠を提出する必要があります(内閣総務官室は土日お休み)。


となると、答弁を書いて法制局の審査をうけ、かつ上記の20人近くに及ぶ長々とした決裁プロセスを実質木曜日の夜~金曜日の午前中に夜を徹してやらねばなりません(←夜を徹しても無理!)。

どだいそんなことは不可能なので、主意書の処理には「仮転送」という裏技が使われています。つまり、正式に「質問」が行われるのは、主意書が内閣に正式に転送された瞬間であるととらえ、実際に議員が内閣に質問状を送り付けたら、内閣はすぐに主意書を関係省庁に「仮転送」するものの、「正式転送」は翌日以降とすることで官僚に答弁準備する余裕を持たせるのです。

とはいえそのような裏技をつかってもかせげる日数はせいぜい数日。主意書がくれば担当課は通常業務はすべてストップ…なんてことはざらにあります。主意書が多数直撃する課では、実質主意書対応専門の人員を配置することもあるくらいです。

まさに、恐怖の国政調査権なのです。



主意書は活用次第で政治家の武器になる 


このように、官僚にとっては恐怖の対象でしかない質問主意書ですが、その「内閣は断れない」という性質を利用して、政府にとって都合の悪い情報を引き出す手段として、使い方次第では、質問主意書は政治家(特に少数野党)の武器になりえます


ただ、そのメリットに対して、かけるコストとしてここまでのプロセスを経る必要があるのか(通常の資料要求やレク要求と同様に各省庁に任せる形にはできないのか)という点は改善の余地がありそうです。


 

 

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ブログの紹介にっこり
 
元浜学園国語科講師で自身中学/大学/院/国家Ⅰ種/司法試験とあらゆる試験を一発合格してきた自称「受験のプロ」で、現役弁護士でもある「くま先生」が、国語が大の苦手な息子のこぐま(早稲アカから27中受予定)に伴走する受験記
 

 

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