『シブヤで目覚めて』アンナ・ツィマ著(阿部賢一・須藤輝彦訳)河出書房新社を読みました。

 

 

チェコで日本文学を学ぶヤナは、謎の日本人作家の研究に夢中。一方その頃ヤナの「分身」は渋谷をさまよい歩いていた。プラハと東京が重なり合う、新世代幻想ジャパネスク小説。

 

書影は画像のみです。リンクしておりません。

 

渋谷×プラハの二都市に分裂した自分がいる。

村上春樹の『アフターダーク』(渋谷のラブホテルが登場。)×カフカ(渋谷から抜け出せない主人公が、いつまでも城にいきつけないカフカの小説のよう。)のような世界観に、『犬夜叉』などの現代のPOPカルチャーが加わり、本筋は大正時代の日本の幻の作家を追い求めるという話。

とにかくめくらめっぽう面白い!!グッド!

 

これがデビュー作というから驚きです。著者のアンナ・ツィマさんは91年プラハ生まれで、カレル大学の日本研究学科を卒業後日本に留学、本作はチェコで最大の文学賞であるマグネジア・リテラ新人賞を受賞しているそうです。表紙の装画は植田りょうたろうさんの手によるもの。

 

17歳のヤナはプラハのギムナジウムに通う高校生。好きなタイプは三船敏郎。周囲の友人たちとは話が合わず、日本びいきの子であっても、「好みのタイプは『NARUTO』のサスケ」というアニメ好きとは話があわない。

彼女は旅行でいった日本の渋谷で「ずっとここにいたい」と願い、その「願い」が渋谷にとじこめられてしまいます。ヤナの体は誰にも見えず、食事も眠りもいらず、渋谷をさまようようになります。彼女はそこで若いころの仲代達也に似ているビジュアル系バンドの青年が気に入って観察するようになり、ある時、彼の命を救うことになります。

 

一方、その後、プラハに帰りカレル大学の日本学専攻に進学したヤナの実体。川下清丸(かわしたきよまる)という、大正時代の作家の『分裂』という話が気になり、彼のことを研究するようになります。日本語が得意なクリーマという先輩に翻訳を手伝ってもらいながら、ヤナは次第に彼に好意をもつようになります。

 

東京とプラハというふたつの都市、そこで分裂したヤナが出会うそれぞれの男性、そして川下清丸の描く小説世界と、川下の実名(上田聡)での生活、時間も場所もすべてが多層的に響き合い、重なり合い、最後にそれらがどのように交差するのか?

いや、もうこんな多層的で味がしみこんだお揚げみたいな小説が面白くないはずがない。ウインク

現代の文体と大正時代の文体を訳しわけた翻訳者のおふたりの技術も素晴らしいなと思います。