『チンギス紀 九 日輪』北方謙三著(集英社)を読みました。
モンゴル族を統一し、さらにケレイト王国を滅ぼしたテムジンは、弟のカサル、テムゲ、長男ジョチらに出動を命じ、タヤン・カンが統べるナイマン王国との戦いを進める。そのナイマン王国の大軍の中に、ジャムカの千五百騎が、ホーロイ、サーラルとともに潜んでいた。
崩れたナイマン軍を見届けて馬首を回したテムジンは、眼前にあるはずのない旗を見る。
ジャムカ。とっさに吹毛剣を抜いたテムジンだが、すさまじい斬撃を受けて落馬する。
ナイマン王国との戦いでは、ジャムカが乾坤一擲、テムジンに斬りかかりますが、テムジンは九死に一生を得ます。
生きのびたテムジン。モンゴル族もタタル族もケレイト王国ももはやなく、すべては同じ草原の民。
草原の覇者となったテムジンは、ゆっくりと全員を見渡してこう話します。
「新しいことが、はじまる。俺は今日、チンギスという名になった。」
今巻、すごく好きな巻です。ついにきたかーー!!という感じ。
13歳で故郷を離れて金国で暮らし、帰還して苦難の末に、モンゴル族を統一したテムジン・・・。
テムジンは戦の強者であるだけでなく、国の運営についても深い考えをもっています。
ボオルチュを評して語ったこの台詞が好きです。
「自分で決める習慣を作って、自分で失敗しなければならんのだ、あいつは。兵たるものは、戦でそれをしている。卓上で、文字や数字を相手にする者は、そこが戦場だ」
とてもいい言葉だと思いました。例えれば、北方さんにとっては小説が戦場なのか。
テムジン以外の人々は・・・というと、
タルグダイとラシャーンは南で暮らしています。
森で暮らすトクトアのもとには、ジャムカの息子マルガーシが傷を負ってかつぎこまれ、元気になったのちはトクトアと暮らすようになります。トクトアに言われて、木刀で岩を打つマルガーシの姿は、まるで鱗滝さんの特訓のよう(笑)
これらの人間たちがこの後の物語にどうつながるのかも読みどころ。
草原の覇者となったテムジンは、ソルタホーンに語ります。
「俺は、金国を叩き潰すのに、手ごろな大きさになってきたと思う」
えーー金国まで平定? 私が世界史を知らなさ過ぎるので楽しみすぎる。
今巻のチンギス飯(はん)はジャムカとリャンホアがつくる鳥の丸焼きに決定。
鳥の腹に野菜を入れて、回し続けながら香料をふりかけて焼く・・・おいしそう。
そしてこのようなだんらんがジャムカの死の前にあったことを思うと、じんときます。
ジャムカの最期はこういう処刑の仕方が騎馬民族にあったのか、北方さんのオリジナルなのかはわかりませんが、痛烈でした。
テムジンとジャムカの若かりし日からの絆にも決着。
なにかが終わったのだ、と思いたかった。
雲の影が、生き物のように地を走った。
まだ、なにも終わっていない。
次巻につづく。