乳がんの予防に大豆や乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株)の摂取が有効なことが、大橋靖雄・東京大学大学院医学系研究科教授らの疫学研究で分かった。乳がんは女性のがんの中では最も多く、戦後ずっと増え続けているが、予防には良い食生活習慣が重要だということが、改めて浮かび上がった。【小島正美】
【乳がん発症リスクの図】
◇若いころの食生活調査で判明 「相乗効果で効き目アップ」
最近は毎年5万人以上の女性が、新たに乳がんと診断されているが、背景には女性の生き方や働き方の変化があると言われる。乳がんは女性ホルモン(エストロゲン)で増殖するため、女性ホルモンにさらされる期間が長いほど乳がんになりやすい。出産が遅くなったり、子供を産む数が少なかったりすると、月経を通じて女性ホルモンが分泌される期間が長くなり、乳がんが増える要因となる。
だが、それだけでは原因の半分程度しか説明できない。食生活や肥満なども、乳がんの増加に関係していると言われている。
大橋教授らは、若い時の食生活習慣が乳がんの発生にどうかかわっているかを疫学的に調べた。全国の14の病院の協力を得て、40~55歳の初期の乳がん患者306人(症例群)と、その患者と似たような生活スタイルを持つ健康な女性662人(対照群)を住民基本台帳からサンプリングして選び、若いころの大豆や乳酸菌の摂取量とがんの発生に関係があるかどうかを調べた。
被験者への質問は、国立がん研究センターが用いている摂食頻度質問用紙を使った。(1)10~12歳ごろ(2)20歳前後(3)過去10~15年前--の三つの時期に分け、調査員が一人一人に面接して食生活を聞いた。
まず解析したのは「大豆イソフラボン」の摂取量。大豆に含まれ、女性ホルモンに似た作用をもつポリフェノールの一種だ。1日あたりの摂取量の多さを四つのグループに分けて解析したところ、摂取量が多いほど乳がんの発症率が低いことが分かった。
また、乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株)の摂食頻度が「週4回以上」「週4回未満」の二つのグループを比較したところ、「4回以上」のグループは「4回未満」に比べ、発症リスクが低かった。
この乳酸菌は、がん細胞などを攻撃するナチュラルキラー細胞(リンパ球の一種)を活性化させることが、マウスを使った実験で確認されている。調査結果からは、乳酸菌の働きが、乳がんの発症リスクの低下に関与している可能性をうかがわせる。
乳酸菌と大豆イソフラボンの相互の関係を解析したところ、大豆イソフラボンの摂取量が少なくても、乳酸菌を多く摂取していれば、乳がんの発症率は低いことも分かった。
大豆イソフラボンの摂取量が多いほど乳がんや前立腺がん、骨粗しょう症が少ない--という研究結果は、今回の調査とは別に、過去にも報告されている。
大豆は腸の中で腸内細菌によって代謝され、その代謝によってできる「エコール」という物質ががんの予防効果を持っていることが分かってきた。大豆をたくさん食べるアジア人の方が、大豆をあまり食べない欧米人に比べてエコールの活性が高いという報告が、これを裏付けている。
こうした過去の研究報告と今度の疫学的解析から、大橋教授は「若いころに大豆や乳酸菌をしっかりと摂取すれば、乳がんの予防になることを示唆している」と話す。さらに「乳酸菌を摂取する食生活を続けると、腸内細菌のバランスが良くなり、大豆のがん予防効果が高くなるのではないか」とも指摘する。
豆類や食物繊維の多い日本型食生活が、腸内細菌のバランスの良さをもたらすという理屈だ。
ただ、今回の調査では、大豆や乳酸菌をどれだけ摂取し続ければがん予防になるか、という「推奨量」までは分からない。数千人を対象に、大豆や乳酸菌を毎日一定量摂取してもらい、10~15年後に乳がんの発症率が低下するかどうかを研究するのが理想だが、現実には難しい。
大橋教授は「乳がんの発症リスクの高い人を対象に、国が何らかの予防研究を行う意義はある」と、国の対策に期待する。
今回の調査は、被験者に過去の食生活を思い出してもらい聞き出す「後ろ向きのケース・コントロール研究」。調査員は、被験者が症例群と対照群のどちらに入っているか分からないようにして質問するなど、厳密な調査方法をとった。だが、調査に協力が得られないケースも多かった。
大橋教授は「この種の調査からは、国民の病気予防に結びつく確かなデータが得られるが、米国に比べ、日本ではなかなか協力が得られない」と指摘。正確な調査には、国民の協力が不可欠だと訴えている。

