タクシーに乗り込むと

 

”見た目の良い男は貴重だよ”

彼女は思い出したかのように言い

 

徐に僕にまたがり

唇を重ね、少しざらついた舌を

僕の口の中に滑り込ませた

 

 

脇目に運転席のバックミラーを見ると

運転手と一瞬目があったが

 

 

僕はあえて目を瞑り

彼女の舌を受け入れ

 

10分かそこらのドライブをやり過ごした

 

 

 

 

目的地の雑居ビルに着くと

彼女は集合看板を指差し

 

”メンバーズバー〇〇”

 

と、にやけながら言って

足早に

狭くタバコのヤニの匂いの染み付いたエレベーターに乗り込んでいく

 

僕はそこでようやく

そこがどういう店なのかを知る

 

慌てて追いかけて乗り込んだ箱の中でも

彼女は隙間を惜しむように舌を絡ませてきた

 

 

目的の階で降りると

慣れた感じでインターホンを鳴らし

 

”予約した××です”

と言い

カウンターに通され

 

形式的な会員の登録や規約みたいなものを説明される

 

 

扉の向こうからは

男女が楽しげに談笑する声が聞こえていた

 

 

会計を済ませ

ようやく内鍵の掛かったドアが開くと

そこは

一見すると普通のバーだ

 

 

僕らが店内に入ると

その賑やかさは一瞬途切れ

見定めるような視線が一斉にこちらに注がれるが

 

その静寂は一瞬で

 

またすぐにそれぞれの世界に戻っていく

 

 

 

荷物を全てロッカーに預け

カウンターに並んで座り

渡されたチケットで頼んだウイスキーの水割りが

目の前に出されると

 

すぐに

1組のカップルが

僕らを挟むように両サイドに座る

 

 

若く綺麗な女性が

”初めてですか?”

 

と僕に話しかける

 

”ええ

彼女に連れられて。”

 

”お二人はどういう関係なんですか?”

 

答えるのと同時くらいに

次の質問が続く

 

 

”さっき会ったところです”

苦笑しながら答えると

 

 

”美男美女でお似合いですね”

と言った

 

 

一通り雑談が進んだ辺りで

 

”プレイルームは行かないんですか?”

聞かれ

 

 

彼女は

”行こうよ”

と言った

 

もう相当に酔っているようで

目は虚で

ほぼ呂律も回っていない

 

 

”彼女この状態で行けそうに無いです”

そう答えるが

 

 

”彼女さん、行きたそうですよ

行ってあげたらいいのに”

 

若い女性が煽ってくる

 

仕方なく

”行きたいなら、行こうか”

僕は女々しくそう言って

 

店員を呼んでシステムを聞いた

 

 

 

その間もずっと

彼女はカウンターの下で脚を僕に絡ませ

指は手の上を這いまわっていた

 

 

 

 

続く