「道化の歌」
シリアスな顔は似合わない
ジーニアスなふりで踏むステップ
かかとを大きく鳴らしたら
ほらご覧、幕が下りてきた
スポットが落ちれば
ざわめきは中に舞う
悲しみは羽ばたいて
既にシリウスの方へ
肩に数え切れない嘘と
傷だらけの魂を乗せて
コバルトブルーのドレスが笑い出す
艶かしい肌色のダンス
隣のボウタイは下品なジョーク
片手のシャンパンが溢れる
Show must go on !
ルーレットが回り
ヴァイオリンは前奏し始めた
緞帳がむっくりと起き上がる
スネアドラムのロールすれば
鶉(うずら)の声はdecrescendo
ウッドベースのリフが
小さな宇宙創造の始まりを告げ
中央のライトがやせっぽちのピエロを照らす
静かに歌い出せば
けたたましい静寂が破れる
"お願いDarling
どうか信じておくれ
君を守りたいんだ"
群衆の舌先から嘲笑
下卑た拍手のリズムは合わず
バンドも苦笑のアンサンブル
トロンボーンの失笑はstaccato
踏み倒した譜面台はバスドラムも鳴らす
"Song for you
どうか届いておくれ
君に伝えたいんだ"
ピカピカの靴がバラバラと床を鳴らす
ウエイターがこぼしたワインを拭く
野次は憎悪の霧を深くし
もう1小節先も見えない
ギターが踏みつけたズボンの端
ビリビリ破れたストライプ
よれたTシャツとジーンズが覗く
ピンスポットはやけに熱くて
涙の跡に見える素顔
それでも気狂いピエロは歌う
ウィッグもメイクもすっかり落ちて
ただの老歌手ひとりきり
ピアノが気づいて手を止めれば
既にバンドの音はなく
皆中央を見つめている
額に汗して涙して
浪々と歌う男が一人
既にマイクも手放して
階下へゆっくり歩き出す
静寂のテーブルを縫う彼を
スポットはゆっくり追いかける
そこに道化はもういない
一人ひとりに語りかけ
時に宇宙の果てまでも
この声は届いてるだろう
疑う者はひとりもない
卑しみの目で見た者にさえ
愛しみの歌で慰める
皆の涙に映るのは愛
家族 故郷 隣人と
愚かな自分と他者への愛
やがて朝日の入り来て
差し込む明かりが小屋を照らせば
バンドも客もそこになく
バーテン マネージャーもない
歌い手は声も既になく
無人のあばら屋あるばかり
時にネズミが顔を出し
チーチーチーと人を呼ぶ
すすけたボスターにはピエロ
最終公演の文字がかすむ
ステージには破れたストライプ
踏みつけられた赤いウイッグ
フロアにワイングラスの欠片
鈍色(にびいろ)を湛えている
