昨日から奴はアジトを動かない。行確に入ってから2日。そろそろ
東アジア某国からの工作員との話だが、それが本当なのかどうか、
朝から張り込んでもう午後4時、
しかし、行確中は身動きが取れない。キツい仕事だ。
俺の職場はそんなものが浸透するわけないか…。
柳田は独りごちた。
休憩を取りたいところだが…。
柳田はスマホをいじった。
「まずいなこれは…」
柳田は電話を掛けた。
「来栖か?」
「はい」
「来れるか?」
「今はこちらも離れられないですね」
「だよな」
「どうかしましたか?応援が必要ですか?」
「あ、いや、応援は必要ない」
「またな」
電話を切る柳田。
さて、どーする?
あいつは出てくるだろうか、
しかし、ここを離れてその間に移動されたらコトだ。
***
「いらっしゃい」
柳田は塩中華そばのボタンを押した。
行列店だというのに幸い空いている。
し、しかし…
チャッチャッチャッ♪
チャッチャッ♬
静かな湯切り音が店と柳田のハートに響く。
まるでジムノペディだ。
その音のリズムに埋没していく。
「はいお待ちど」
丼が厳かに着弾した。
「おお、美しい。さてと…」
柳田は徐に箸を持った。湯気が立ち昇る丼。
「た、たまらん」
そこに携帯が鳴る。
「く、なんだこんな時に」
柳田は箸を置いて電話に出る。
「来栖か」
「先輩、奴、今からアジトを動くそうです」
「な、なに!」
「いつだ」
「まもなくです。先程奴らの仲間の携帯通話を傍受しました」
「わかった」
くそ、どーする、刑事としてはすぐに走り出すべきだ。し、
「くお!」
やはりうまい。アッサリしているのにコクがある。どこまでも飲め
ズルズルッ、ズルズルッ。
う、うまい。もちもちした中太麺、
く、時間がない…。
柳田は時計を確認する。もう20分はゆうに経っている。
柳田はチャーシューを口に放り込んだ。
「わりいなおやじ。急用なんだ」
柳田は断腸の思いで席を立った。店を出ると走って張り込み場所に
「クソクソクソクソ、間に合えよー!」
なんとか間に合ったか…!?
しかし、柳田の目線の先にマンションを出て角を曲がる奴の背中が見えた。
これはまずい…柳田はその背中が角を曲がった瞬間に走り出した。
「はい」
「ちゃんと尾行できてるな?」
「はい!もひほんです!」
「お前。まさか何か食べてるのか?」
「ひへ、ひゃーひゅーが」
「なんだ? 大丈夫なのか?」
柳田はチャーシューを飲み込んだ。
「はい。勿論です。奴の動きは捕捉しています。一旦切ります」
ふぅ…危なかった…。
角を曲がる柳田。
奴がタクシーに乗り込んでいた。タクシーが走り出す。
走りながら携帯を取り出す柳田。
「はい来栖」
「やつはタクシーに乗って巣鴨から御茶ノ水方面へ向かった」
「わかりました。向かいます」
「頼む」
柳田は来た道を戻り、離れた所に停めた自分の車に乗り込み、
「よし、見つけた」
柳田はターゲットの乗ったタクシーを見つけた。タクシーを降りる
ん?あれは…
なんだラーメン屋か…うまそうだな。柳田は次に行くべきラーメン
そこでまた携帯が鳴った。
「来栖です。今奴は?」
「こちらで捕捉した。御茶ノ水駅だ」
「向かいます」
「早く来てくれ」
「はい」
柳田は携帯を切った。
「さてと、来栖と交代するまでは、我慢せにゃならんな」
柳田はターゲットの入った建物の見える場所で再び監視を始めた。
先程ラーメンにありついたと言うのに、既に柳田の貧乏揺すりが始まっていた。
***
麺創庵 砂田
東京都豊島区巣鴨4-24-6 富士ビル