「想像してたのよりキレイです。」
部屋に入ってすぐレースのカーテンも開ける。
今日は遠くまで見えるから気持ちいい。
「ははは。どんなの想像してたんですか。」
「ふふ。なんとなく、忙しいだろうし家事してる姿とか浮かばなくて。」
「しますよぉ。まあ、最低限ですけど。見れば分かるように。」
僕は恥ずかしくてほんのちらりとだけ大野さんを見る。
大野さんはなんとも幸せそうな表情で、でも遠慮がちに目をキョロキョロさせている。
僕はもうキュンが止まらない。
こんなに素直な表情をする人だったのか。
これからもっと色々な顔を見られるのだろうと思うと、未来の全てが明るく見えてくる。
大野さんは今なにを考えているのだろう。
「でもオシャレです。」
「好きなものばかりを集めてはあります。あ、座ってください。俺片付けちゃうんで。」
「はい。」
明るく返事をして、大野さんが僕のソファに腰掛ける。
視線は窓の外に向けたまま、ボディバッグを体から外して足元に置く。
僕は大野さんに貼りついている視線を無理やり剥がして、買い物の荷物を解き始める。
いつもより品数が多いから、冷蔵庫とパントリーとカウンターの間をクルクルと回転していると目が回りそうだ。
でも急いで大野さんのところに行きたい。
「ふふふ。櫻井さん、目ぇ回りませんか?」
大野さんに声をかけられる。
「回ってます。でももう終わります。・・・よしっ!何飲みます?ビールとか?」
「ふふふ。それはちょっと早くないですか?」
時計を見ると16時をちょっと過ぎたところだ。
でも確かに外はまだまだ明るい。
「ははは。ちょっとはしゃぎすぎました。じゃあまずコーヒー入れますね。マシーンが。」
「コーヒー頂きます。」
僕は手を動かしながら、大野さんが自分の部屋にいるその景色の非現実的な輝きを噛み締める。
「夢みたいだな・・・」
大野さんには聞こえないように呟く。
「カズが昨日言ってたんですけど、 」
「はい。」
「櫻井さんち落ち着くから長居しちゃって帰れなくなるって。」
「ははは!確かにカズは来るとなかなか帰らないです。でもしばらく来てないですよ?ってか、なんの話してたんですか?」
「ああ、えっと・・・なんだっけな。忘れちゃいましたけど。珍しく櫻井さんの話ばかりしてきて。」
「ははは。そうなんだ。クシャミ出なかったけどな。」
「ふふふ。」
「あ、スケッチ、遠慮なくどうぞ?」
「あの、外出てもいいですか?」
大野さんはベランダの家具を見つけたようだ。
「もちろんです。今日俺そこで一人飲みしようと思ってたんですよ。こんな日はホント気持ちいいんです。」
大野さんはボディバッグを拾い上げてベランダへの窓の鍵を外して開ける。
「すごい・・・」
「あ、サンダル横にあるんで履いてください。」
「はい・・・」
景色に気を取られて返事に力が入っていないのがまた可愛らしい。
また何かインスピレーションでも湧いてきたのだろうか。
僕の部屋が大野さんの創造のためのGO TOになったらいいのに。
大好きな人の後ろ姿を見ていたら、そんな途方もない望みが胸に生まれてきた。
(つづく)