「もちろんですよ。まあライバル会社のものは堂々とはできないですけど。うちを通してできるところのものは、こちらも大歓迎なんで。」


僕は松本に言われた通り、担当編集の相葉さんに軽いマネージメントの依頼をした。


「助かります。」

「もともとこっちにもいくつも来てんです。少し落ち着いたら翔さんと相談しながら片付けようと思ってて。」

「そうなんだ。」

「なんで、メール、転送してくれて構わないんで。」

 


「いやー、それ本当に助かります。俺分からないことも多いから。」


相葉さんはニコニコして頷いている。
長く担当してもらっているけど、この人のプライベートはあまりよく知らなかったりする。
すごく頼りになるけど、たまにドジ臭い。
謝りながら顔をクシャクシャにして笑う。
怒る気にもならない、気のいい人だ。

 

 

こんな厄介な仕事を頼んで、家に帰るのが遅くなったりしないだろうか。

待っている人がいるのでは?
知らないことは僕を悩ませる。


「相葉さん、こんなこと聞いていいのか分からないけど、」

「なに、なに?」

「俺が仕事増やしちゃっといてなんだけど、残業とかになると寂しくなる人とか・・・」

「あー、翔さん優しいなー。まあ俺のパートナーもものすごく忙しいから分かってくれますよ。」

「やっぱいるんだ。はは、そういう話したことなかったから。」

「もう2年くらいになるんですけどね。あっちも忙しくてあんま時間が合わなくて。」

 


爽やかに、あまり困ってなさそうに言う。
きっと上手くやっているのだろう。


「それにこのくらいなら残業とかしないんで。」

「そっか。ならいいんだけど。」

「翔さんは?誰かいないんですか?あ、松本くんとか?」

「ま?」

「あー、ごめんごめん、勝手に俺と同じにしちゃダメですよね。」

「ん?」

「あー、俺の恋愛対象が男性だって話。・・・ってか、こうしてみると、翔さんとは本当にプライベートの話してこなかったんですねぇ。」

「ああ。そうなんだ。いや、俺と松本は友達で仕事仲間、まあ戦友?って感じかな。」

「じゃあ、他に?」

 


話すとなると一気にすごいな・・・。
でもまあ、嫌じゃない。


「もう5年くらいいないかな。それこそ相葉さんと仕事始めて少しした頃に別れて。」

「あー・・・なんとなく元気なかった頃ありましたよね。」

「ははは。俺分かりやすいから。相葉さんのパートナーはどんな人なの?聞いてよければだけど。」

「んー...かっこいいですよ?ゲーム会社でデザイナーやってるんですけど。」

「へえ。」

「なんかホワッとしてて、一緒にいると癒やされる感じ。」


・・・・ん?
なんとなく大野さんに似ているのかな?


「やったことあるかな、・・・待ってください。」

 

相葉さんがポケットから出したスマホを操る。

そして、すぐに画面を僕の方に向けてくる。

 

「これ。これのキャラクターデザイン全部やったんですって。他にもたくさん関わっててとにかく忙しい。」


「え・・・。」

「ん?やったことあります?」
 

「ああ、うん。最近ちょっとやった・・・けど・・・この、これ?作った人なんですか?」


「うん、まあ。なんか急に照れますね。」


相葉さんは嬉しそうに頭をコリコリ掻いている。
僕はなんだか世界が白く見え始めて、心臓の音が耳元で聞こえているように感じて・・・。


そうか。
大野さんには相葉さんというパートナーがいたのだ。




(つづく)