🌷フォロワーさん500人記念に、常にいいねの数が多かった「スパイラル」のスピンオフを書かせていただきました。
ど素人の創作にいつも優しい反応をありがとうございます❗
仲良しな2人をお楽しみください✨
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翔ちゃんはいつもそうなのだけど、とにかく僕には優しくしたいらしく、言葉が乱暴になることさえあまりない。
甘やかされてるなぁって思うけど、僕だって翔ちゃんにはいつでも優しくしたいと思っている。
付き合い始めて2年。
翔ちゃんは毎日きちんと大学生をしていて、僕も毎日きちんと専門学校生をしている。
僕は2年制のコースをもうすぐ卒業。
1年生の終わりには、イラストだけでなくデザインにも手を出して、一時期は忙しさに翔ちゃんを蔑ろにもしたけれど。
そんな日々にも翔ちゃんは翔ちゃんのままで、僕らの間に危機なんて存在させる気は欠片もないようだった。
「智くん、俺・・・智くんの作品を売る人になりたいな。」
最近、僕の部屋でピッタリ隣同士で座ってお互い違うことをしていることが多い。
今日は僕は課題のデザイン。
翔ちゃんは教授に勧められた本を読んでいた。
「それってなんて言う仕事?」
僕は手を止めずに翔ちゃんに訊ねる。
「分かんない。営業?プロデューサー?」
「ふふ。なんか俺のじゃ儲からなそうだね。」
「はあ?そんなに凄いのに?なに言っちゃってんの。」
翔ちゃんが僕の描きかけの課題を覗き込んで言う。
「何言っちゃってんのはこっちのセリフだよ。」
「待って。智くんはそんなこと思わなくていいんだって。俺がー、大好きな人の作った素晴らしい物をこの愛をもって売り込むって話なんだから。」
「ふふふ。」
「・・・だめ?」
「だめって言うか、そんなの仕事として成り立つの?」
「あと2年ちょいをそのための勉強に費やす。教授に聞いて、経済学だけじゃダメなら他のクラスも取るし。智くんはその間に作品を描きためといて。」
「ふふふ。」
「・・・・。」
翔ちゃんは口を尖らせて僕を見ている。
僕はそんな時の翔ちゃんにはあまり反発しないことにしている。
すればその先は、僕を褒めちぎる言葉を並べ立てては気持ちを固めていく作業が始まるだけだ。
今それが得策かどうか僕には分からないから。
「ココア飲む?」
「やった!牛乳多めで。」
「ふふ。熱いやつね。」
「うん。ありがと。」
ニコニコの翔ちゃんが、少し照れたような表情になる。
翔ちゃんは僕がココアを作る度に、あの日を思い出すらしい。
もう2年。
あれから何度も一緒にココアを飲んだけど。
でも僕が「もう2年」なんて口にしようものなら、翔ちゃんは黙っていない。
「 ま だ 2年だよ。俺の片思いの期間の方がよっぽど長いんだから。これからこの何十倍でも一緒にいるつもりだからね。」
「ふふふ。分かってるよ。体感の話。早いなーって。」
「幸せな時間は得てして過ぎるのが速い。」
ドヤ顔でそんなことを言う翔ちゃんが愛おしくてたまらない。
毎日会っててもきっと変わらずに再会を喜んでくれる。
「溺愛」って言葉が思い浮かぶ。
「やっぱ智くんの入れてくれるココアは美味い。」
ただでさえクリクリ可愛い瞳を輝かせて、両手でマグカップを包み込む翔ちゃんの笑顔は僕の宝物だ。
「でもそれ、 」
「智くんの愛情が入ってるからなのー。」
パッケージの通りに作ってるだけだと毎回口答えをする僕に先回りして翔ちゃんが言う。
僕は笑って横から翔ちゃんの腕にしがみつく。
「入れてるよねぇ?味するもん。」
「愛情?じゃあ、うん。」
「ははは!じゃあってなによ、じゃあって。」
「ふふふ。」
くっついたままの僕の額に翔ちゃんがチュッと音を立ててキスをする。
僕は顔を上げて唇へのキスをせがむ。
ココアを一口飲んだ翔ちゃんの温かい唇が僕のと重なる。
幸せだなあ。
甘いし、柔らかいし、優しいし。
離れないで欲しいなあ。
トキメキでクラクラしながら僕は思う。
このまま抱かれてしまいたいけど、今日はまだやりたいことがある。
翔ちゃん喜んでくれるかな。
「智くん。俺もう・・・。」
「ごめん、翔ちゃん。ちょっとだけ待って。」
「どした?」
「ん。ちょっと。」
「・・・分かった。けど、そんなには待てないよ?」
「ふふ。俺もだから大丈夫。」
僕は火照った頬に手を当てながら、机の引き出しにしまっていた箱を出す。
「これさ。」
翔ちゃんの隣に戻って小さなテーブルの上に箱を置く。
「え。も、もしやこれは・・・プ・・・プロ・・・」
「ふふ。そんなんじゃないけど。でも開けてみて?」
「違うの?あ、や、まあそれは俺からと思ってたし・・・。」
「え?」
「開けます!開けていい!?」
大きな声で誤魔化しながら、翔ちゃんが箱を手に取る。
「なになに?」
翔ちゃんはもうウキウキ笑顔になっている。
「なにこれー!!?」
僕は、中身を手にして興奮している翔ちゃんからそれを受け取ると、3つのパーツを組み立てる。
「こ、これは・・・。」
翔ちゃんはドラマチックに驚いて見せている。
「ふふ。大袈裟だなあ。」
「これはもしや、今何かと作られているアクスタの木製版・・・?」
「モクスタだね。先週の特別講習が木工だったの。」
「え、待って?手作りなの?・・・すげえ。」
翔ちゃんは口を開けたままモクスタの輪郭を指で撫でる。
一生懸命ヤスリをかけた甲斐があった。
「もちろん智くんのデザインだよね?智くんと俺だし?智くんの絵だし?」
「そ。翔ちゃん部屋に写真飾りたいって言ってたから、代わりにできるかなーって。」
「すげえ・・・。」
「ふふ。気に入った?」
「家宝・・・。」
「だから大袈裟。ふふふ。」
翔ちゃんはテーブルにモクスタを立てて、近くから隅々を観察している。
「あんま見るとさ。」
「これは、こうすると?」
翔ちゃんは木製の2人を少しずつ近づける。
差し込み部分は「へ」の字型のスリットにしてあるから動かせるのだ。
「ほら!手つないだ。」
翔ちゃんが満面の笑みを浮かべて僕を見る。
「やっぱ手は繋いでたいよねえ。」
尊い。
愛してる。
その笑顔を見て僕は思う。
翔ちゃんは凄い。
僕の好きを毎日でも更新してくれる。
そんなことできるんだな。
もうこれで100%だと思うと、簡単にそれを超えていくのだから。
じゃあ、翔ちゃんを愛する世界において、今の僕の気持ちは実はほんの10%くらいなのかもしれない。
あるいは、満杯が10000%とか?
雲を突き抜けて宇宙に登っていく僕の気持ちを思い浮かべる。
キラキラした星のような。
いつかもっとハッキリ見えたら絵に描きたいな。
「ありがと、智くん。」
翔ちゃんが僕を抱きしめる。
「喜んでくれて良かった。」
「うん。最高。」
「ふふ。」
「もういいだろうか。」
「うん。優しくお願いします。」
「もちろん。」
翔ちゃんがゆっくりと僕に覆い被さる。
僕は目を閉じる。
これから翔ちゃんの全てを感じるのだ。
そしてまた僕の気持ちは膨らんでいく。
この先何年でも膨らみ続けるのだ。
(おわり)