放課後、智の希望で僕の部屋に集まることになった僕たちは、帰り道のコンビニで飲み物とおやつを調達する。
「さっき女子たちが翔くんと潤の話してたよ?」
「ん?」
「なんか昼休みに2人してはしゃいでて可愛かったって。なにしてたの?」
「ああ、あれか。」
潤は軽く微笑んで、でも解説する気は無いようだ。
「俺も行けばよかったな。」
「はは。まあなんかくだらないことだよ。当たり前だけど、見られてたか。」
「翔の声がでかいから。」
「俺だけ?」
「ふはは。」
「ふふふ。なんか羨ましい。やっぱ旅行も行きたかったなぁ。」
智の言葉に僕の胸がギュッとなる。
「おばあちゃん元気だった?」
「うん。ばあちゃんめっちゃ元気。今回会わなくてもあと100回くらい会えそうだった。」
「ははは。それは良かったって言うべきだね。」
「智のためにって翔に山ほど写真撮らされたから。行ったみたいな気になるんじゃない?あの、デートしてるみたいな構図のもいっぱいあるし。」
「デートって。ふふふ。」
「それで俺も撮ってたの?」
「んー。景色だけじゃ行った気になんてなんないでしょ。」
「ふふ。さすが潤だね。」
智が嬉しそうに表情を崩す。
自分がいるように振る舞っていた僕らを想像してくれたのだろう。
確かに僕の中には常に智がいた。
「まあ、半分は自分のためだけどな。」
潤が言って、僕は驚いて潤を見る。
潤はいたずらっぽくニヤニヤしていて、僕は口を尖らせる。
「ふはは。」
気持ちを伝えたからって開けっ広げになりやがって。
今までと違うのは自分じゃないか。
僕はこの先こんなのの度にドキッとして慌ててってなるのか。
プンスカ。
「翔くん、チョコ好き?」
「あ、うん。好きだよ。」
「じゃあこれ買お。」
なにこれ。
すでにデートみたい。
変なこと言い出す潤がいなければ。
「あとはポテチがいいね。」
それぞれが飲み物を選んで、僕らはコンビニをあとにする。
「この間ちょっと数学で分かんないとこあって。」
「うん。連絡くれればよかったのに。」
「うん。けど、翔くんに教わったときを思い出して教科書見たら解けたんだよね。すごくない?」
「すげえ。」
「嬉しくて電話しようかと思っちゃったもん。」
くれれば良かったのに!
叫びたくなるのを我慢する。
「すれば良かったじゃん。」
潤が言う。
「ふふ。けどそれじゃ意味ないし。時間も遅くて。」
「そっか。でも役に立ってるみたいで良かったよ。」
「うん。」
ニコニコしている智が愛おしい。
表情が崩れそうになるけど、潤が横にいるから少し我慢する。
こういうのは仕方ないよな。
「智さ。かなり前に初デート行くって話してくれたじゃん。」
「デ、デート?」
潤は急になにを言い出すんだろう。
ナイスアシストでもしようと言うんじゃないだろうな。
ちょっと僕的にはまだそのアシストを活かす準備ができていない。
「ふふ。なに急に。」
「いや、あれってどうなったの?あの後のこと聞いてないから。」
「まあ、普通に。」
「え、続いてるってこと?」
「まあ。」
僕の心臓が下腹のあたりまで落ちていったように重くなる。
息が上手く吸えていない。
だから早いんだって。
そんなアシストいらなかったじゃん・・・。
涙だけは出てきてくれるな。
「彼女のこと好きになったってこと?」
「いや・・・正直そうでもなくて。あ、誰にも言わないでよ?本人に伝わっちゃったら困るから。」
「いや、それどうなの?」
「潤。」
僕は少しだけ回復したものの、そんな相手がもういることにまだショックを受けている。
このまま聞いていれば僕にも望みが見えてくるかもしれない。
でも、これ以上智にいろいろ言わせたくもない。
「いいよ、翔くん。どうすればいいか分かんないだけなの。会う度に向こうは距離縮めようとしてくんだけど、俺の方はなんか引いちゃって。このままじゃダメってずっと思ってるんだけどね。」
「そっか。だいたい智は誰か好きとか話してたことないもんね。」
「ふふ。そうなの。よく分かんない。これから誰かに出会うのかなぁ。」
「もう出会ってるかもよ?案外近くにいたりして。」
「えー。ふふふ。」
僕は隙を見て潤を軽く睨みつける。
もういいって。
潤はニコリと僕に笑顔を返してから、智の肩に腕を回す。
「まあ、なんなら俺が彼氏になるけど。」
「ふふ。あいつらも潤のこと推してくんの。潤ならイケメンだから許せるって。」
「ふはは。」
「それ言うなら翔くんだってイケメンじゃんね。」
智が僕を見て、潤がその横で僕を見る。
それはどんな表情なんだ。
「智はどっちのイケメンが好みなの?」
「じゅ・・・。」
「翔くんのほうが優しいし頭いいけど、潤は頼もしくてかっこいいしなぁ。俺には選べないな。」
「選んで。」
「潤!」
僕はこらえきれずに大きな声を出してしまう。
智は目を丸くしてびっくりしているし、潤は僕を真顔で見つめている。
こんな風に知りたいわけじゃない。
自力で失恋したいし、頑張ったよって潤にちゃんと報告したい。
「ごめん。俺ちょっと用事思い出しちゃった。これ、2人で見て。俺もう何回も見てるから。」
潤はポケットから出したメモリーカードを僕に手渡すと、くるりと今来た道を戻り始める。
「潤。大丈夫?」
智が声をかける。
「ん。明日ね。翔、俺日直で早いから待たないでいいから。」
「おう・・・。」
「翔くん、潤泣いてる。」
智が僕にすがるように言う。
「・・・大丈夫だよ。ごめん。智くんも帰りたい?」
智は僕をまっすぐ見つめてから首を振る。
「せっかくだし、写真見る。潤にはあとで電話する。」
「俺がするよ。夜、俺が話す。」
「・・・分かった。」
潤はあの後平気そうにしていたけど、全然平気じゃなかった。
智と一緒にいる僕を見るには早かったのだ。
僕にはその気持ちがよく分かる。
僕だってだてに真剣な片思いをしてきていない。
(つづく)