こんなに満ち足りた気分で登校するのは久しぶりだ。

隣にいる潤がいつもよりイケメンにも見えてしまうのはこちらの変化に違いない。

 

「ご機嫌だな。」 

 

潤が言う。

 

「ん?んー。まあ。」

 

「ふはは。なんか知らないけど、ニヤケんな。」

 

「無理。俺、人に頼られるのこんなに嬉しいとは思わなかった。昨日からずっと引きずってんの。」

 

「・・・・。」

 

潤が無言で僕を見ている気配に振り向く。

ジットリとした目つきが何か訴えてくる。

 

 

「・・・あ、まあ潤はその「人」にカウントしないって言うか?」

 

「なんでよ。俺も人だろ。」

 

「お前はもう俺にとったら・・・家族?みたいなさ。今更だろ。」

 

「ふーん。よく分かんないけど。」

 

潤は目を逸らしたまま不機嫌そうな声を出す。

 

「怒ってる?なんで?」

 

「別に。」

 

「なんだよ、年頃か?」

 

僕は潤の肩に肘を乗せて顔を覗き込む。

 

 

「あ、智。」

 

「えっ?」

 

 

潤の目線の方を見ると、道の反対側をいつものように智が歩いている。

寝癖がいつもより大きい。

可愛い。

 

「ふはは。」

 

潤も寝癖を見たのだろう。

 

 

やがて横断歩道に差し掛かった智が左右を見て、僕らを見つける。

パッと表情が明るくなる。

 

「潤!翔くん!」

 

僕らに向けて顔の横で手をヒラヒラと振る。

 

「はよ。」

 

潤が軽く手を振り返す。

僕はその横でブンブンと大きく手を振ってから、小走りで横断歩道のこっち側まで移動する。

 

 

「おはよう、智くん。」

 

ちょうど渡り終えた智に僕が声をかける。

 

 

「ふふ。おはよ。」

 

「昨日ぶり。」

 

「ふふふ。目え覚めた。」

 

「翔のテンションのせいでしょ。まったく朝から。」

 

ゆっくり追いついた潤が言う。

 

 

「そういう所、見習いたいな。身だしなみとかもきちっとしてて。」

 

ほんわか微笑む智は、本当はまるで見習いたいとは思っていないようにも見える。

 

 

「ははは。智くんはそのままでいいよ。」

 

「俺には無理か。」

 

「え、そういうんじゃないよ。」

 

「確かに智が翔みたいになったらちょっとなんかヤダな。」

 

「えー。まあ、なれないけど。俺家出る20分前に起きるから。翔くんは?」

 

「俺?俺は・・・だいたい2時間くらいかな。」

 

「はあ?そんなに長い間何やってんだよ。」

 

潤が言う。

 

「別に。着替えて朝メシ食ったら、新聞読んだり。母親と話したり?」

 

「想像できない。あ、翔くんはできるけど、自分はね。」

 

「だからいつもそんなに覚醒してんのか。」

 

「覚醒・・・。まあ、まあね。」

 

智が僕をじっと見ているのに気づいてドキドキする。

 

 

「すごい。憧れる。そんな朝。できないけど。」

 

「ふはは。」

 

「はは。慣れだよ。もうずっとこんなんだから。」

 

智の目がキラキラして見える。

僕の気持ちが反射してるのかもしれないと思う。

 

こうして会話しながら並んで歩く朝が来るなんて、なんということだろう。

 

 

 

 

(つづく)