「そんなわけで昼、智と行くわ。」

 

「ははは!『そんなわけで』はそんなに唐突に使うフレーズじゃねえよ。」

 

と、潤が変だみたいに言う僕のテンションもかなり高いことは自覚している。

 

 

「ふは。いや、なんか昨日から続いてる気がすんの。なんでだろ。翔、俺の夢にでも出てた?」

 

「はは!なんでたよ。俺が知るかよ。」

 

「まあそうだけど。」

 

潤が笑い声を立てずに笑っている横顔を見る。

平和な朝にこのイケメンだ。

モテそうなのになー。

なんで僕とばっかいるんだろ。

僕が女なら放っておかない。

 

とは言え、僕の対象は男なのだから潤でもおかしくはない。

でも智なんだよな。

 

 

「どした?」

 

「ん?いや。」

 

潤の横顔がイケメンで物思いにふけってたなんて言えないし言ってやらない。

 

 

「櫻井、おはよ。松本もおはよ。」

 

「おう。珍しいな。」

 

潤が言うけど、珍しいのかどうかも僕には定かじゃない。

 

「はよ。」

 

「後ろの女子が朝からイケメン2人見れてラッキーだって。」

 

「は?どこ?」

 

「冗談。松本だけ。」

 

「・・・だろうな。まあ俺もそう思ってるよ。」

 

「ん?ん?」

 

潤がキョトン顔で自分を指してから僕を指す。

 

「あー、もう!幼馴染みがイケメンなの疲れるわー!」

 

「ふははは!初めて言われたんだけど。」

 

「いやあるだろ。覚えはないけど。言ってるはずだろ。」

 

「うそ。そんなの忘れるかなー。」

 

「俺は忘れるね。」

 

 

「私なら褒められたら忘れない。」

 

「ん?あー、そう?」

 

「私はね。じゃあ教室でね。」

 

「おう。」

 

彼女が小走りで言ってしまうと、潤が言う。

 

 

「もう少しくらい優しくしてやれよ。」

 

「え?」

 

「あいつ健気に頑張ってるよ?」

 

「なにを。」

 

「わかんねえか。まあ、相手が悪いよな。お互い苦労するわ。」

 

「は?潤はなに苦労してんのよ。」

 

「ふは。」

 

潤は笑うだけで何も言わなくて、僕はあの場面での優しさについて考えていた。

 

誰にでも優しくなんて出来やしない。

優しくしたい相手は決まっているのだから。

 

それに、女の子だからと態度を変えるつもりもない。

対等だし平等な気がしてるんだけどな。

 

 

「まあ少なくとも俺に対しての方が優しいな。」

 

「・・・・。え、俺ってなんか冷たい人に見えてるの?」

 

「冷たい・・・てか、塩対応?あいつくらいなのに、女子で翔に話しかけんのなんて。大事にした方がいいぞ。珍種だよ、言わば。」

 

「・・・確かに。」

 

 

でも、別に嬉しくもないんだよな。

あれが智ならな。

って、つまりこれが塩対応ってことになるわけだ。

真っ直ぐ心に忠実にいるだけなんだけど。

 

 

でも、誰かを嫌な気持ちとか残念な気持ちにさせるのは好ましくもないな・・・。

僕が智にそうされたなら、この世の終わりくらいに悲しいに違いない。

 

「じゃあさ、潤が教えてよ。」

 

「ん?」

 

「俺がもっと・・・丁寧に?人に接するべきだと思ったとき。なんか合図とかちょうだい?」

 

「えー。めんど。」

 

「頼む!」

 

僕は顔の前で手を合わせて潤に頭を下げて見せる。

 

「えー。」

 

上目遣いで潤を見ると、バッチリと目が合う。

バサバサに長いまつ毛の下の目は僕を軽く睨んでいるように見える。

 

 

「ちゃんとお礼するから。」

 

「まじで。」

 

「まじまじ!今日から櫻井は優しいという評判が立つくらい頑張るから!」

 

潤は少し黙って僕を見てから、フッと息を漏らすように笑うと言う。

 

「それで誰にモテたいの?」

 

「い、いや別にそういう目的は・・・」

 

「はいはい。分かったよ。そのかわりちゃんとお礼な。」

 

「ありがと!やっぱ持つべきものはイケメンの幼馴染みだな。」

 

潤は吹き出して、僕はなんだかウキウキしていた。

 

 

 

 

(つづく)