「櫻井翔。俺の幼馴染。前に話したことあんじゃん。ずーっと一緒の奴。」
「ああ、覚えてる。謎だって言ってたやつだ。」
会話は耳に入ってくるものの、内容がうまく掴めない。
妄想でもしていないと緊張する。
「翔。多分知ってるだろうけど、大野智。」
「・・・どうも。ずっと潤と一緒に広報やってるって・・・。」
「ああ、ふふ。そうなんです。・・・あ!」
「!?」
智が急に大きな声を出して、僕はただでさえ緊張していたせいで飛び上がる。
「どした、急に。」
潤が落ち着いた声で智に聞く。
「あ、や、なんか急に思い出したんだけど。櫻井くんに一年のとき助けてもらったことあるかも。」
・・・そんなことを僕が覚えていないなんてあっていいのだろうか。
僕は声も出せずに智を見る。
「んーと、入学式の週とか、そんなん。なんだっけな。俺もあんま覚えてないけど、今ふと櫻井くんの顔知ってる感じして。笑ったとこ。」
「へえ。まあ、翔は困ってる人とか見ると放っておかないやつだから有り得るな。」
「ふふ。そうなんだ。思い出したら潤に話すね。」
「おう。まあ、思い出さなくてもいいけどな。」
「・・・・。」
相変わらず僕はなにも声にできなくて。
頭の中に渦巻く言葉たちもうまく捕まえられない。
「あ、ごめん。じゃあ、潤あとで。櫻井くんも。」
「ん。」
2人が小さく手を挙げ合って、僕はまだなにも言えないまま視線だけを智に向ける。
そんな、そんなことって。
なんでそのときに友達にならなかったんだよ、俺!
「翔。」
「ん。」
「そんなわけだから、今日は一緒に帰らない。」
「ああ、分かった。」
「どした?」
その言葉を合図に僕の意識が潤に戻る。
「あ、いや、いつなにしたんだろうって。」
「ああ、智助けたってやつ?あいつの誤解かもだしね。」
「まあ、その確率も。」
「ふはは。まあ、あの頃多分ものすごく色んな人助けたりしたんだろ、翔のことだから。友達作ろうとかしてたんじゃないの?」
「・・・分かる?でも、だとしたら大野くんとも友達に・・・。」
「まあ、響かなかったんだろうな、お互いに。」
チクショ。
なぜ。
是非とも響き合いたかったぜ。
「あの、良かったらお名前とか・・・。」
「あ、んと、櫻井翔っていいます。1年E組。」
「え、同い年なんだ。なんかしっかりしてるから先輩かなって。なんかごめん。よく見れば色が一緒だ。」
「はは。謝ることないよ。」
「ふふ。うん。俺はA組の大野智。よろしくね。」
智がふわりと笑顔になる。
キュンとする。
でもそれを隠して僕もなるべく凛々しい笑顔を見せる。
「うん。よろしくね。」
「あの、これも良かったらでいいんだけど、今日昼一緒にどう?あ、でもクラスで友達作るか。」
「えっ、いいよ?是非!」
「ふふ。」
智が上目遣いで可笑しそうに笑う。
「あ、いや。俺もまだ決まった相手はいないからさ。はは。」
喜びすぎたかなと思いながら僕も笑う。
「嬉しいな。じゃあ昼休みになったら翔くん、あ、って呼んでもいい?」
「も、もちろん。じゃあ俺も智くんって呼ぶよ。」
「ふふ。俺が翔くんのクラスに行くね。」
「うん。あ、待って、俺が智くんとこに行くよ。」
僕の教室だと潤もいるから、そう提案する。
「そっから移動してもいいしね。」
「ふふ。うん。じゃあ待ってる。」
なにこのデートのお迎え感...。
萌死ぬ。
僕は今夜死ぬのか。
(つづく)