「そう言えば、今年は多摩川の花火大会が復活するって。」

 

「え、そうなんだ。あれ、最高にキレイなんだよなー。行く?」

 

「行こうよ。他にも誰か誘って。」

 

「他にかー。」

 

 

誰と行ったらあの長い帰りのバスのための列が苦痛じゃないか。

そんなの、今の僕に思いつくのは一人しかいない。

 

 

 

 

「智、なんか食う?俺買ってくるけど。」

 

「翔ちゃんなに食うの?俺全部はいらないから少しちょうだい?」

 

「ラジャー!じゃあ俺が食いたいの適当に買っていい?」

 

「一緒に行こうか?」

 

「いいの、いいの。座ってて。すぐ戻る。」

 

「ふふ。ありがと。」

 

「無問題!」

 

 

はしゃいでいる。

暗くなる前にたくさん智を見つめて、甘やかして、なんなら触ったりして。

 

潤なんてこの際行かなくてもいい。

 

 

「うわぁ・・・」

 

「すげえ・・・」

 

「翔ちゃん・・・誘ってくれてありがと。」

 

「来てくれてありがと、智。」

 

微笑み合う幸せは他には代えがたい。

 

花火に照らされて色んな色に光る智の顔を横からこっそり見つめる。

花火もいいけど、僕にはこっちの方が。

 

 

 

 

「翔!」

 

頬をつねられて我に返ると、目の前20センチほどのところに潤のくっきりした顔がある。

 

「うわっ。」

 

「はあ?まじで。」

 

「ああ、すまん。あまりにも濃ゆい顔が近くにあったもんだから。」

 

「もっと強くやってやっか。」

 

「やめろ、冗談だよ、悪かった!」

 

潤が僕の頬に手を伸ばそうとするのを危ういところで避ける。

 

 

「最近なんなの?ニヤニヤニヤニヤ、ニヤニヤニヤニヤ。」

 

「そんなに?」

 

「そんなにだね。」

 

「いや、まあ。なんて言うか、んー。」

 

言えるか!

 

 

「気持ち悪っ。まあいいよ、放課後な。」

 

潤が軽く手をあげて教室を出ていく。

隣のクラスに戻るのだ。

 

 

休み時間ごとに来ることないのに。

ってか、たまには僕が潤のクラスに行きたいのだ。

智がいる教室。

 

なぜかいつも先に授業が終わる潤が僕の教室に来てしまう。

なんらかの力によって邪魔されているのでは・・・なんて思うくらい。

 

智がいる教室の景色はきっとキレイに違いない。

 

 

「花火かー。潤が誘っちゃってくれたら最高なのにな。」

 

潤がもっと智と仲良くしてくれればって思うけど、そんなこと言えない。

紹介してもらうほどの距離感でもない。

 

幼馴染ってもっとなんかこう、役に立つものじゃないの?

 

 

「俺はクズか。クズなのか?」

 

自己中心的な思考に嫌気がさして、独りごちる。

 

 

「櫻井、なに自分のことけなしてんの?」

 

隣の席の女子がクスクス笑いながら声をかけてくる。

一番独り言を聞かれている人だと言っても過言ではない相手だ。

 

 

「あ、ごめん。ホント無視してくれていいから。」

 

「無視したいけど、聞こえちゃうし、面白すぎるし。」

 

可愛い声と顔。

でも、妄想の対象にはならないんだよな。

 

 

「すみません。以後気をつけます。」

 

ぺこりと頭を下げて見せる。

 

「いえいえ、謝らなくていいんだけどさ。もっと自分に優しく?」

 

「はい。心がけます。」

 

またクスクスわらいながら、彼女は机から教科書やノートを引っ張り出す。

それを見て僕も後ろのホワイトボードで次の授業を確認する。

 

数学だ。

 

隣のクラスは次はなんだろう。

潤に聞いておけば良かった。

 

同じように授業の支度をする智の姿を想像する。

 

寝癖がついていて、それだけでもう可愛いかった。

 

 

 

 

(つづく)