「智、起きて?10時になるよ。」

 

穏やかな潤の声で僕は目覚める。

 

 

「ん・・・あいよ・・・。」

 

「起きた?」

 

「ん。」

 

 

潤の唇が、キスをせがんで突き出した僕の唇に触れて、僕はようやく事態を把握する。

 

 

「潤っ!?」

 

慌てて起き上がった僕の額と、キスをしたばかりですぐ近くにあった潤の額が音を立ててぶつかる。

 

 

「いっって!」

 

「潤!潤!」

 

 

僕は痛がる潤を構わず思い切り抱きしめる。

 

その勢いで潤が僕の上に覆いかぶさるように倒れ込む。

 

 

やっぱり夢だった!

良かった!

 

ちゃんと目覚めることができた!

 

 

「なんだよ!?どした?」

 

「潤・・・。」

 

「・・・なに?」

 

「会いたかった・・・。」

 

「ふはは。昨日からずっと一緒にいるのに?」

 

潤が優しく僕の頭を撫でる。

 

 

「石頭。まだ痛えし。」

 

「ごめん。嬉しくて。」

 

「俺がいるのが?」

 

「・・・ん。」

 

 

「ふはは。そんなん俺も嬉しい。」

 

「ふふふ。もっと喋って?」

 

「は?んー、あー、今日なにする?」

 

 

「え、今日仕事は?」

 

「は?智まだ寝ぼけてんな?今日は休み。祝日じゃん。」

 

「・・・え、今日って何日だっけ?」

 

 

潤が答えたのはちょうど記念日の夜から2週間たった日だった。

 

 

・・・翔ちゃんと夢の中で過ごしたのも2週間・・・。

 

一体どうなってるんだ?

 

 

「智がしたいことないならさ、俺少し荷物運んじゃおっかな。」

 

潤が弾んだ声で言う。

 

「・・・荷物?」

 

「うん。一気に引っ越し大変じゃん。必需品だけでも。」

 

「・・・もしかして俺ら同棲するの?」

 

 

「・・・覚えてないのか?」

 

潤が軽く僕を睨む。

 

 

「だから飲み過ぎんなって言ったんだよ。あんなに嬉しそうだったくせに。日記にまで書いてさ。」

 

「まじ・・・?日記・・・。日記!」

 

 

僕は潤をはねのけるようにしてベッドから降りると、リビングの棚にしまってある日記を取りに走る。

 

 

「智?」

 

後ろから潤の声が追いかける。

 

 

日記だ。

日記にすべて書いてある。

 

もし、僕が2週間この・・・世界?にいなかったとして、その間のことは簡単にだけどそこに記されているはずだった。

 

 

栞をたぐって日記を開く、数ページ戻ると、そこにはちゃんと僕の文字が並んでいる。

 

 

僕の知らない、僕のいなかった2週間だった。

 

 

 

 

(つづく)