潤を選んだことは、僕の人生でした選択の中でも最も誇れることで、それを疑ったことなどなかった。
こんなふうに潤が苦しんでいるなんて考えもしなかった。
「今日は一緒にいたいって思って。」
「・・・いやになりそうなの?」
「え?」
「俺といるの。イヤになるかも?」
「ならないよ!?」
潤は慌てて、僕の体をグイッと潤の方に向かせて言う。
「好きすぎるって話なのに嫌になるはずないでしょ?」
「過ぎるのは危ないかもと思って。心配し疲れたり、投げやりになったり?」
「・・・あー。」
潤は言葉を失ったようにうつむいて。
「おいっ。」
今度は僕が慌てて、潤を抱きしめる。
変な角度で腹筋がツラい。
「智はさ、」
「なに。」
僕は抱きしめる腕に更に力を込める。
「俺のこと好きだよね。」
「っふふ。まあね。だいぶね。疑う余地も無いくらいね。」
「ふは。・・・うん。いや、分かってんだよ?俺多分、記念日きっかけに考えすぎてんの。いろんなこと思い出しちゃって。」
「そか。まあ俺は腹治すことと潤に精神集中してたからな。」
「ふはは。ね。・・・ごめんね?」
僕は潤を離して顔を見る。
「謝んなくていいし。不安なの言ってくれて良かったよ。コソコソ悩まれてもな。」
「ふははっ。言い方。」
潤の笑顔は可愛い。
軽く天使を超えてくる愛おしさだと思う。
僕は潤を不安にさせるようなことはしたくない。
しない。
潤があまりにも翔ちゃんのことばかりを気にしているせいだろうか、その夜僕は翔ちゃんの夢を見た。
あのカフェで僕を待っていたのだろうか、翔ちゃんはキラキラと微笑んで店に入ったばかりの僕に手を挙げて合図した。
近寄った僕のために椅子を引き、「寒かったでしょ」と少し眉間を寄せて、それからまた笑顔になって。
僕は待ち合わせ相手は潤だったはずなのにと不思議で、でも久々の翔ちゃんの笑顔になんだかホッとしていた。
瞼の向こうが明るくなっているのに気づいて目を開けると、いつもの僕の部屋の天井がある。
隣で寝ていたはずの潤はもう起きて仕事に向かっただろうか。
「潤・・・」
ごめん、と心で謝る。
潤があんなに心配してるのに、夢でも会ったらダメだろう?
脳の仕組みは分からないけど、二度とこんなのダメだと言ってやりたい。
大切な人を泣かせる趣味は僕には無い。
僕はベッドの横に置いていたパーカーを羽織ると歯を磨こうと部屋を出る。
ん?
壁にかけてた絵がない。
落ちたのかと下を見るけど、どこにもない。
潤が選んでくれた絵なのだけど、潤が外したのだろうか。
リビングの方で音がする。
まだ潤がいる。
嬉しくなった僕は、急いでリビングに続くドアを開ける。
「潤っ。まだいた?」
「あ、智くん、おはよ。俺もう出るとこだけど、ご飯だけ炊いてあるからね。」
「え?」
「ん?」
そこにいたのは、スーツをカッチリと着こなした翔ちゃんだった。
(つづく)