智は僕の動きを全部目で追っていた。
「ずっと会えなくてごめん。」
「ううん。忙しそうだね。」
「そうなんだよ。もう休みたい。」
「次はいつ休みなの?」
「まだ決まってない。日曜は休みたい。本当は週7で休みたい。」
「ふはは。そりゃ疲れてるね。」
「ふふふ。」
半分目を閉じそうな智を僕は見つめていた。
何日もずっと会いたかった相手がこんなにそばにいるのに、僕は手を触れることさえできないでいる。
こんなに疲れている智に、僕のわがままなんて聞かせたくない。
胸が痛くて、息が浅くなる。
「潤。」
「・・・ん?」
「頼んでいい?」
「・・・なに?」
鼓動が早くなる。
「抱きしめてもらっていい?」
「・・・え?」
「外じゃないしいいでしょ?」
「・・・うん。」
僕が答えると、智はストンと僕の真横に移動してきて身体をもたせ掛けてくる。
僕は腕を開いて智を包み込む。
まだ少し混乱していたけど、別にどうでも良かった。
智は相変わらず甘い香りを発して、僕の腕の中で大きなため息をついた。
「なんで離れて座んの?潤、会いたかった。」
僕の緊張やら不安やらが一気に解(ほど)けて、涙になって溢れてくる。
「俺も・・・会いたかったよ。」
「ん・・・。今日泊まっていける?一緒に寝たい。」
「・・・いける。」
僕はバレないように涙を拭いながら応えた。
断るはずがなかった。
誰よりも僕が、智のそばにいたいのだから。
「俺すんごい我慢してたの。」
「ん?」
「仕事のトラブル、当事者が参っちゃって入院しちゃったの。俺が代わりにさばくことになったんだけど、相手のわがままがハンパなくて。」
「そうだったの?」
「ずっと緊張してて。」
「そっか。」
全部分かるような気がした。
そんなときこそ甘えて欲しかったけど、智のやりかたはそうじゃないのだ。
まっすぐと、ひとつのことに集中する。
「終わったの?」
「終わりは見えた。だから、俺も会いたいって言おうと思って電話したの。」
「ふはは。そっか。俺はまた振られるのかと思って。」
「はあ?ありえないから。潤がいるから頑張れたんだから。」
「・・・うん。」
「ごめん。不安にさせて。」
「ううん。」
智は僕の腕から抜け出すと、僕の首にそっと手を添える。
僕はそれを合図に目を閉じて、僕らは久しぶりの長い長いキスをした。
(つづく)