『そっか、潤の仕事関係の人たちはあちこちにいるもんね。』
ビデオ通話で智と話していた。
四谷でのデートを見られた話をすると、智は微笑んでそう言った。
「うん。でも、東京じゃ、どこでも一緒でしょ。智の職場の人にはあまり見られないほうがいいのかなって。俺はほら、職種が職種だから。」
『んー。そうなのかな。』
智の反応は、僕が予想していたものとは少し違った。
だけど、僕は僕で智を守らなくては。
「だからさ、外でキスとか手繋ぐのとか、ちょっとやめた方がいいよ。」
『・・・分かった。』
「・・・その代わりキャンプとか、智んち行ったりとか。」
『ん。』
智の口数は明らかに減ったけど、仕方ない。
だって、やっぱり世間はまだそんな感じなのだ。
「明日から出張入ったの?」
『ん。2泊。』
「俺の仕事が区切りがついてたら一緒に行っちゃうのになぁ。」
僕は智のテンションを戻したくておどけて見せたけど、智の反応は薄かった。
『どうせ俺は一日中仕事で潤とはいられないし。』
「でも夜は一緒だよ?」
『それなら2泊でキャンプの方が。』
「うん。まあ、そうだけど。」
外でキスができないことがそんなに嫌なのだろうか。
それとも他になにかあるのだろうか。
僕は不安になっていたけど、それを智には伝えなかった。
結局、智のテンションは戻らないままで、僕らはお休みの挨拶を交わした。
通話を切ったのは智が先で、僕はやっぱり不安なままだった。
あれから、智は立て続けに出張が2つ入り、2つ目の最終日に電話をしてきた。
その間、話していなかったわけじゃない。
でも、会話は当たり障りのないトピックに終始していたし、僕は智が恋しくてたまらなかった。
『潤、ごめん。せっかく帰ってきたけど来週まで会えなそう。』
「来週!?」
『悪いけど、これから呼ばれてるから行かなくちゃいけなくて。もう切るね。』
「え、ちょ、待って。来週って何曜日のこと?」
『木曜かそれ以降。』
「まじか・・・。」
『ごめん。もう着いちゃうから。また電話する。』
本当に急いでいる様子で、僕はそれ以上なにも言えなかった。
智の様子が変だ。
ずっと、電話でも「好きだ」と言ってくれていない。
それが一番引っかかっていた。
それに、僕が言えるタイミングも与えられていなかった。
そりゃあ、僕はそういうことを言うのが下手だから、タイミングを上手く図れないというのもある。
でも、やっぱりおかしいのだ。
怖くて仕方ない。
僕があの日の電話の前になにかしたり言ったりしたのだろうか。
あの日の電話の前に、智はもう僕に冷めていたのだろうか。
その夜、僕はなかなか寝付けなくて。
ようやく眠ると、すごく嫌な夢を見た。
智がどこを探してもいない夢。
妹もその存在すら知らないし、僕のスマホからは連絡先が消えていた。
苦しくて泣きたいのに、涙が出てこない。
目覚めると、来ていたシャツは汗でびしょ濡れになっていた。
「会わなくちゃ・・・。」
僕は智に会いたいと伝えるために、ベッド脇のテーブルに置いたスマホに手を伸ばす。
ブー ブー
届きそうになっていたスマホが震えだす。
スクリーンには智の名前があった。
急いで手に取る。
「智っ?」
『潤。』
「智、会いたい。俺、どこにでも行くから、今日会いたい。」
『うん。俺んちでもいい?』
「いい。何時に行けばいい?」
『ふふ。じゃあ、22時。そのくらいには帰る。』
「分かった。」
『じゃあ、後でね。』
「うん。後で。」
別れたいと言われるだろうか。
やっぱり僕ではダメだと言うのだろうか。
だけど、会わないままでは進めないと思った。
(つづく)