さっきから智と翔がコソコソと頭を突き合わせて話している。
気になるけど、私が関係している確率は低めだしと我慢している。
「そいじゃそれで。」
突然智が普通の声量に戻る。
私はびっくりして「わっ」と声を発してしまった。
「どした?」
翔が私に声をかける。
「いや、いきなり声が・・・。」
「ふふ。驚いた?」
「驚いた。」
智が嬉しそうにニヤニヤしている。
「さっきからそこで静かにしてるからさ。」
「え、わざと?」
「ふふふ。」
「ちょっと俺ら出かけてくるわ。」
翔が口を挟む。
「え、あ、そうなの?」
「うん。夕飯までには戻るけど、なにか欲しいものある?」
智が聞いてくれる。
「どこ行く?」
「それは言えない。」
翔が言う。
こういう扱いには慣れているから、私も気にしない。
「・・・じゃあ、シュークリーム。カスタードの。」
「ふふ。生クリーム入ってないやつでしょ?」
「え。」
「なんで知ってるかって?解説しよう。」
翔が始める。
「まずキミはシュークリームがとても好きだね?そしてキミが冷蔵庫に入れているものの傾向を見ると、わざわざカスタードと表記されているものが多い。」
「・・・・。」
まさかこんなことがバレているとは思わなかった。
「だからだよ。」
翔が終わらないのに智が穏やかな声で締める。
「はははは!」
「さ、行こ。」
智は翔の手を恋人繋ぎで引っ張っていく。
「え、手にアロンアルファつけとけば良かった!」
「ふふふ。そんなことしなくても、下までは離さないよ。」
「もっとずっと離したくないもん。」
「ふふふ。」
「「行ってきます」」
「いってらっしゃい。」
2人は手を繋いだままで靴を履いているらしく、はしゃぐ声が玄関から響いてくる。
「待って、ちょっと待って!」
「まだ履いてないの?」
「智くんはサンダルだから。」
「翔ちゃんも俺があげたやつ履けばいいじゃん。お揃いで。」
「そうじゃん。そういうの早く言って?」
「ふふふ。早く出して履け。」
智の命令口調で、翔はきっと萌えているに違いない。
今日も平和だな。
そう思ってカレンダーをふと見ると、今日はなんと私の誕生日だ。
最近忙しくてすっかり忘れていた。
今日は山の日だから仕事も休みだって知ってたのに。
帰ってきたら2人に言わなくちゃ。
「おめでとう」って言って微笑ってくれたらそれでまた1年頑張れる。
帰ってきた2人がプレゼントと花束(とシュークリーム)を持っていたのは、また別の話。
(episode 11 おわり)