「潤、今年の誕生日なんだけど。」

「ん?」

「またあそこに星見に行きたくない?」

「見に行きたい。」

 

なぜか少しびっくりしたような顔で潤が応える。

たっぷりと4日間は一緒にいられるように有給を取ったと昨日伝えたばかりだ。

 

 

「ふふ。なにその顔。」

「へへ。ちょうど俺も行きたいなって考えてたから。」

「そう?」

 

 

前回は冬で。

寒くて身体を寄せ合いながら、満天の星の更に上に2人で思いを馳せた。

 

いつか一緒に宇宙旅行をしようねなんて言いながら、潤のキラキラ輝く瞳を横から見つめていたのを覚えている。

 

 

「グランピングも考えたんだけど、夏だしテントでのキャンプもいいかなって。」

「したい!智のキャンプ飯食いたい!」

 

「ふふふ。じゃあ、2泊ね。で、帰ってきて一日ゆっくり。」

「じゃあ、予約しよっと。」

 

潤がスマホを手にする。

 

「なんで自分の誕生日の予約すんのよ。俺がするよ?」

「別にいいじゃん。俺が毎年誕生日来るの嬉しいのは智のおかげなんだから。どっちでもいいの。」

「・・・・。」

 

「あれ?トキメイちゃった?」

「ふふ。トキメイちゃった。」

 

僕らは笑い合って、こめかみの辺りをコツンとくっつける。

 

潤はスマホの画面を見たままで、僕は窓からの青い空を見つめて。

 

 

このソファに座って潤と過ごす時間が、僕は大好きだった。

 

 

「楽しみだね。」

「ふはは。うん。すげえ楽しみ。」

 

 

「そういえばさ。」

「ん。」

「この前から言いたくて忘れてたんだけど。」

「ふはは。どっちなのよ。」

「ふふふ。」

 

「予約完了・・・。」

 

潤がスマホをソファの腕に置く。

 

 

「なに?」

 

優しい響きが心地良い。

 

 

「俺も潤と一緒に和食だけでいい。」

「ん?」

「昼はどうせ別のものも食うし。家では和食でいい。潤と同じものがいい。」

 

 

「智。」

 

潤が体をひねって僕を抱きしめる。

 

 

「あ、もしかしてこの間のシチューのこと言ってる?」

「ん。」

「あれは違うのよ。友達がね?シチューにすると旨いって言って肉くれたの。で、シチューなら智に食べさせたいなって思ったから作っただけ。」

「・・・確かに肉旨かった。」

「そ?」

「うん。」

 

「良かった。」

「そっか。ありがと。」

 

僕は小さく安堵のため息をついた。

潤が抱きしめる腕にいったん力を込めてから体を離す。

 

 

「なに、気にしてた?」

「いや、潤が気にしてんのかと思って。」

「んー、もうしてない。」

「ん?」

 

「同棲し始めた頃はしてた。なんか悪いなって。」

「ふふ。かなり前だね。」

「そ。」

 

ふと見た笑顔の潤の瞳がキラキラしていて。

 

僕は反射的に潤の頬に手を伸ばす。

 

 

「俺らもうすぐ記念日も来るね。」

「そうだね。」

「さと・・・。」

 

僕は潤の言葉を遮ってキスをした。

 

「ん・・・。」

 

 

「濃厚・・・。」

 

キスを終えると、照れた表情で潤が言う。

 

 

「ふふ。悪い。仕事前に。」

「ほんと悪いよ。行きたくなくなるわ。」

「俺はもう行きたくない。」

「ふははは。やめろー。」

 

 

潤は「有給の申請しなくちゃ」と満面の笑みで身支度を始める。

 

僕は少し火照ってしまった体を伸びと深呼吸でごまかしてから立ち上がった。

 

 

「今夜早いからなんか映画でも観ようよ。」

 

潤が言う。

 

「あ、この間言ってたやつ。」

「ああ、いいね。」

「メシ俺やるね?」

「ありがと。もう出る?」

 

「そこまで。」

「ん。」

 

 

僕らは一緒に玄関を出て、分かれ道まで一緒に歩いた。

使う駅が違うから、そこでバイバイだ。

 

別れ際ちょっとだけ手を握って、そっと離すとその手を振る。

 

 

「じゃあね」と言いながら見つめ合うのが僕らの「愛してる」の代わりだ。

 

 

 

 

(特別編 おわり)