智くんの背中にはまだ水滴がところどころでキラキラと輝いている。
腕を動かすたびに盛り上がる広背筋がセクシーだ。
この人が僕のためにシャワーを浴びてきたのだと思うだけで、僕は胸がいっぱいになる。
慣れることのできない景色だ。
「俺今日は泊まれないの。翔ちゃんはどうする?」
まだ頭をゴシゴシ拭きながら振り向いた智くんは、まださっきと変わらない表情で。
本当に僕が欲しいの?なんて聞いてしまいたくなる。
僕はずっと耳が熱いくらいに興奮してるのに。
いつも智くんが僕を少し狂わせるんだ。
「どした?」
「ん。あー、俺も帰ろうかな。智くんいないなら、泊まっても眠れないし。」
赤いかもしれない耳を擦りながら応える。
「...家では眠れてるの?」
「家ならまあまあ眠れてるよ。」
僕はズルい。
こんな風に智くんを心配させて、僕の傍にいなくちゃって思ってほしいのだ。
「ごめんね。今日は約束してたことがあって。」
「大丈夫だよ。急に会いたいとか我がまま言ったの俺だし。」
「嬉しかったよ?」
「うん。」
智くんはいつも、僕が欲しい言葉をちゃんと言ってくれる。
言葉が下手だなんて思い込んでるみたいだけど、智くんのそれはいつも僕の深い所まで届いて、全部をちゃんと信じさせてくれる。
だけど、智くんは僕らの時間が終われば、もっと大切にしている人のところへ帰っていく。
目眩がするくらい情熱的なキスや気を失ってしまいそうな快感の余韻を、たっぷりと僕に残して。
「そんなの気持ちよくなりたいだけでしょ」って打ち明けた相手は言うに違いない。
僕らの関係の特別が、伝わるはずがないから。
説明して理解してもらえる気もしない。
理由はそれだけじゃないけど、僕は智くんとのことを誰にも話していない。
僕の気持ちは、智くん以外の誰一人として知らない。
不健康だし、不浄だし、でもそんな言い方は当てはまらないとも思っている。
僕の気持ちはこれ以上ないくらいピュアだし本物だし、それに応える智くんだってちゃんと本気なのだ。
「おいで、翔ちゃん。」
僕は促されてベッドの智くんの横に座る。
智くんの腰にはタオルが巻かれていて、僕はトランクスを履いている。
これを取り払う頃、僕は思考能力なんて失って、ただ智くんの香りに包まれるのだ。
(つづく)