会いたくて会いに行くけど、僕はいつも会いたかった昨日よりも寂しい気持ちで智と別れる。
「また明日ね」って本当は本気で言ってることを認めることもできなくて。
一瞬泣きそうになって、智を見ると笑顔が可愛くて癒されて。
そしてまた寂しくなる。
これのどこが、翔さんと違うんだろう。
結局は秘めたままで智を求め続けて。
翔さんの意志は固い。
翔さんなりに智を守っているのが分かる。
尊敬するし、僕には出来ないことも分かっている。
「やだな。」
翔さんとの楽屋に戻る廊下を歩きながら、僕は独り言をこぼす。
「会いたいな」だし、「困ったな」だし、「もう疲れたな」でもある。
明日必ず会える日々に戻りたい。
だけど、この想いを口にする日は永遠に来ない。
「俺考えたのよ。」
「また考えてたのか。たまには頭休めることも考えたら?」
「・・・無理。いや、松潤だってだいぶ脳みそフル稼働でしょ。」
「俺のは仕事。翔くんのは違うでしよ。」
「・・・・。バレてるのね。」
「俺もだから分かるけど、考えてるだけじゃあの人からは絶対来ないからね?」
「そこまでバレてるのね。」
僕は何をしてるのだろう。
翔さんと同じ土俵に立てば、勝ち目が無いのは分かってるのに。
「松潤はいいよ?あの人、松潤には甘いから。」
「は?そんなことないでしょ。」
「あるのよそれが。大ありなのよ。」
「ふうん。」
僕には分からない。
「でも、翔くんから会いたいって言われたら、智は断らないよ。」
「果たしてそうだろうか。俺には断られる場面がありありと想像出来る。」
翔さんは大真面目な表情で言う。
「あの人俺には厳しい。」
智がきっと翔さんに会いたがっていること。
でも多分絶対認めないであろうこと。
教えてあげればきっと翔さんは喜ぶし、それだけでまたしばらく頑張れると言うだろう。
指先から悔しさみたいなものがこぼれ出てきそうで、僕は右手の指を擦り合わせる。
智と翔さんの絆が、ずっと憧れだった。
年齢が近いだけじゃない何かがそこにはあって。
僕はただ、甘えることでそばにいるしかないと思ってた。
「遠慮されないってのも...なんかいいじゃん?」
「どゆこと?」
「俺がわがまま言うとき、あの人は初めの何回か超えると譲ってくれるけど、多分なんだかんだ我慢しててさ。翔くんのときは、つまりは、遠慮なく自分の気持ちを言えてるってことじゃないの?」
「・・・・。ムゲに断ることで?」
翔さんの不満そうな表情の中に少し笑顔が混じる。
「その距離感が俺には特別に見えんだよね。」
伝えてしまって良かったのかも分からないままで、僕は翔さんに微笑む。
「ん・・・。そっか。なんか、ありがと。」
「ううん・・・。」
それから僕らは黙って、さっきしていたタイムトリップのことなんて忘れたように口にしなかった。
(つづく)