「おはよ。」

後ろから聞き慣れた声がして振り向くと、優しく微笑んでいる松潤がいた。

 

「おお、松潤。おはよ。あれ?今日スタジオ被ってたんだっけ。」

 

「うん。俺もさっきマネージャーに聞いたところだけど。」

 

松潤は肩の後ろに指でぶら下げたカバンを持ち直して言う。

 

言っておくけど、僕はあの持ち方はあまりしない。

カバンがデカくて重いから。

 

智くんはカバンを持っているときはしてたかな。

 

 

そんなことを思っていると、松潤が続けた。

 

「楽屋、一緒にしてもらう?」

「え?ああ、別に構わないけど、俺ほとんどいないと思うよ?」

「俺もどうせ呼ばれるまでだよ。番宣3個だけだから、終わったら速攻帰るし。」

「早く終わるの?」

「20時くらいかな。悪くないでしょ?」

 

「まったく悪くない。俺もたまには早く帰りたいよ。」

「ふはは。仕事の虫がそんなこと言う?」

 

 

松潤は笑ってから、ちょうど通りかかった僕の番組のパーカーを着たスタッフさんに声をかけた。

 

「すみません。可能だったら櫻井と楽屋一緒にしてもらえますか?番組は違うんですけど。」

「え、あ、はい。できると思います。櫻井さんのお部屋が4人用の部屋なので、そちらでよろしいですか?」

 

そう言って、スタッフさんが僕と松潤の両方に目線を配る。

 

「いいよ。あっちの番組のスタッフさんにはこっちで知らせるから。」

僕が応える。

 

「お手数かけます。」

松潤もピョコリと頭を下げて言う。

 

 

スタッフさんが行ってしまうと、松潤が僕を見る。

 

「ん?」

「ううん。翔くん背中が疲れてたなって思って。」

「マジで?」

 

「うん。大丈夫なの?」

「体調は悪くないよ。ちょっと考え事はしてるけど。」

「ふうん。・・・聞こうか?」

 

 

智くんのことを松潤に話したって、いや、誰にだって同じだけど、どうにもならないのだ。

それは分かってる。

でも、そろそろ弱音がこぼれてしまいそうな気がする。

こぼしたほうがいいのか、せき止める堤防を高くした方がいいのか。

 

 

「タイムトラベルとかできねえかな。」

 

僕は勝手知ったる楽屋のドアを開けて言った。

松潤は僕が抑えるドアをくぐって楽屋に入ると僕を振り向いた。

 

 

「やり直したいんだ?」

「うん。」

「どこから?」

 

僕はドアを閉めたところで立ち尽くした。

 

 

どこからやり直したら、僕は智くんと今でも目と目を合わせて微笑みあえているのだろう。

 

 

 

 

(つづく)