何回コールしただろう。
ようやく繋がった画面は真っ暗で、智の声の代わりにガチャガチャと何かを片付けるような音が聞こえてきた。
「・・・ん?」
『なんで今ビデオコールなんだよ。』
数秒後に智の声がする。
遠くから話しているようだ。
「あ、ごめん。忙しいなら切る。」
僕も少し声を張り上げる。
『待て待て。』
ゴソゴソと音がして、画面がくるりと天井だか壁だかを映してから智を下から映し出した。
「ふはは。目が回るわ。なにしてんの?」
『朝飯の片付け。』
「今?もうすぐ10時になるけど。」
『俺は何時に朝飯食おうが自由なの。』
そう言うと、智はスマホを持ち上げて、ようやく正面からの顔を見せる。
「ふふ。うん。まあそうだね。」
『で?』
「ん?ああ。いや、ただちょっと暇だったから。」
『ああ?俺が暇でもお前は暇なんてないだろ。』
「5分くらいね?」
『ふふふ。そんな詰め込む?』
「ふはは。いいでしょ?これから忙しくなるから智の顔見て癒やされようと思ったのよ。」
『ふふ。今日は寝癖を直さない。』
「ははは。なんの宣言?」
智の頭を見る。
確かに激しく寝癖が暴れている。
『ふふふ。』
「可愛いな。スクショしちゃおっかな。」
『やめなさい。』
「いいじゃん。俺しか見ないから。」
『そういうことじゃない。』
「よっ。」
僕はカシャリと音を立てて、画面いっぱいの智とその寝癖をスクショして収めた。
「やった。」
『ふふ。お前もう仕事行きなさい。』
「お、本当だ。じゃあ、またね。癒やしをありがと。」
『ふふふ。与えたつもりはないけどね。』
「もらったよ。」
『あっそ。』
言葉と裏腹に智は優しく微笑んでいる。
これ以上の癒やしを僕は知らない。
ちょっと胸を締め付けられるけど。
画面越しにキスでもしたくなるけど、ふざけて返されてもまた胸が疼くだけだからやめた。
翔さんの待受のカルパッチョのことを聞きたかったけど、それもやめた。
智と寝癖は待ち受けにはしないけど、この先しばらく会えない間の宝物になる。
僕はかすかに残るモヤモヤを首を振ってごまかして、智に行ってきますと告げてコールを切断した。
(つづく)