智くんから電話が来たのは2日前の夜だった。

割りと遅い時間に電話が鳴って、誰かの緊急事態かとひやりとした。

 

慌てて手にしたスマホの画面には「智くん」の文字。

赤と緑の円が僕を急かすように震えて見えて、危うく指を間違えた方に置くところだった。

 

 

 

 

「もしもしっ、お待たせっ。」

『ふふふ。どうしたの?』

 

まるで、会えなかった時間が一瞬にしてなにか強い力で押しつぶされたようにして存在感を消す。

 

「いや、なんかビックリしちゃって・・・。」

『ふふ。遅くにごめんね?』

「それはいいのよ。で、どした?なにかあったの?」

 

『ないよ。ちょっと声聞こうと思って。』

 

智くんの声はまるでトーンを変えない。

 

「そうなの?」

『うん。元気なの?』

「・・うん。元気。智くんは?」

『おでも元気。』

 

声が震えそうに緊張していたのが、一気にほぐれる。

 

「ははは。酔ってる?」

『うん。ちょっとだけね。潤と飲んでたの。』

 

サラッと発された名前に胸がズキンと痛む。

だけど、もちろんそれは無視して智くんの声に耳を澄ませる。

 

『しょおくんはなにしてた?』

「ん。俺はもう寝る支度してたよ。明日も早くて。」

『そっか。毎日お仕事えらいね。』

「ははは。俺はしてないと不安なだけ。」

『ふふふ。』

 

もっとたくさん話してくれれば、ゆっくりと声を聞いていられるのに。

智くんにそれを求めるのは違うって分かってるけど。

 

 

『じゃあ、おやすみ。』

「え?!」

『・・・どした?』

「あ、いや。んと・・・。」

『あ、しゃしんおくる。おわったら。』

 

「この後ってこと?」

『ん。待ってろ。』

「ははは。うん。」

『じゃあね。』

「うん。おやすみ。」

 

 

 

そりゃあ何の写真かなんて聞かなかったけど。

あの流れでこれが来るとか思わなくて。

僕は実に3分ほど呆然と送られてきたその写真を見つめていた。

 

もう少し話ができるように粘れば良かった。

 

 

いや、でも、うん。

贅沢は言わない。

これだって、智くんの様子に変わりはないのだろう。

智くんから送られてきたものだと言うだけでも、本当は充分なのだ。

 

そう思うと、自然に頬が緩んでくるから不思議だった。

 

 

僕はその写真をスマホの待ち受けに設定した。

誰が見たって、僕の智くんへの気持ちに結びつける人なんていないだろうし。

 

 

これを見て、僕は想像し続ければいいのだ。

 

智くんの日常を。

智くんの笑顔を。

 

 

 

 

(つづく)