「胸がいっぱい。」
僕は箸を置いて言った。
「お腹でしょ?」
「胸だよ。」
僕はドキドキが収まらなくて、もう噛んでも飲み込めない。


「もうちょっと食うから待って?」
潤が察して優しい声を出す。
「全部食って。待てるから。」
「待てそうな顔じゃないし。」

そんな風に言う潤が色っぽく見えてしまって、僕は余計にソワソワしてしまった。


「大野さんの方が俺のこと恋しかったじゃん。」
潤が嬉しそうにそう言って、ご飯を口に入れる。
モグモグと動く唇さえも、もう見ているべきものじゃなくなっていた。


「大丈夫なの?」
「いいから早く全部食って。」
「急げって?」
「黙って食え。」
「はははは。分かったよ。なんならシャワーしちゃえばいいじゃん。」

「・・・そうだな。」
僕はクローゼットの前に置いていた自分の荷物を取りに向かった。
パンツの前がきつくなりつつあった。


「食べ終わったら俺も行くね?」
潤が僕の背中に言う。
「・・おう。」
振り向かずに応えて、僕は風呂場に向かった。


ただくっついて転がっていられる気が全くしなかった。





空はすっかり暗いのに、カーテンを開ければネオンの明かりが眩しいくらいだった。
でも遮光カーテンがいい仕事をしてくれているおかげで、部屋には色が入ってこない。


「大野さん。」
「あい?」
潤は右腕を枕にして僕の方を向いている。
「大野さんはなんで俺が恋しいこと隠そうとするの?」
「ん?」
「ビデオコール中は余裕な顔だったけど、あんなん絶対めちゃめちゃ恋しかったじゃん。」


さっきまでの行為を思い出す。
最中の潤の表情が浮かんで、身悶えする。


「はは。思い出してるし。」
「行き過ぎてた?」
「いや、気持ちよかったよ?」
「あ、そ。」
「嬉しかったし。」
「ん。」


自然と手が伸びて、潤の髪に触れる。
しっかりとしているのに柔らかい。

この感触も、そばで聞こえてくる息遣いも、キラキラの瞳も、並べれば切りがないほどのすべてが恋しかった。
毎日。


「大野さんが俺のこと恋しくて泣いても、俺引いたりしないけど?」
「いや、泣かねえし。」
「例えばの話。そういうとこ、むしろもっと見たい。」
下がった目尻が優しい。

「カッコつけてるわけじゃないんだよ。」
「ん。」
「なんか、認めると我慢できなくなりそうだし。」
「自分の中でね?」
「うん。だから、誤魔化してんだろうね。」


潤が僕の腕に頭を乗せてくっついてくる。

「なるほど。」
「ふふ。」
「俺に見せたくないわけじゃないのね?」
「そうだね。」
「じゃあ、いっか。どうせ、全部分かるし。」


「分かっちゃってた?」
「そうだね。」
「ふふふ。」
「大野さん、大好きだよ?」


潤が僕の頬にチュッとキスをした。




(つづく)