(翔)

智くんが起きてた。
背中を向けて。
なんだか様子は変だったけど、僕が隣に座ったことを嫌がっている感じはなかった。
避けられてたのかもって思ってたけど違ったみたいで良かった。
だるそうだったけど、熱もないし。

っていうか、僕にしては頑張ったと思う。
智くんの額に触れるなんて、普段なら絶対できない。
松潤がしているところを見てすごく悔しかったから、ちょっと頑張ってしまった。


智くんは僕の太もものほど近くに、丸めた毛布を枕にして横になっている。

僕は新聞ではなく、自分の左右の腕を交互に見つめていた。
さっき一瞬、智くんの目の焦点が定まっていないように見えて、僕は慌ててこの両腕の中に智くんを包み込んだのだった。
とっさのことだった。


「えっ・・・」
智くんは小さな声を上げて、次の瞬間、僕の胸にもたれかかってきた。
「あ、え、大丈夫?!」
僕は喜びよりも先に庇護欲に動かされていた。
「どした?智くん?」
「ん・・・」
肩を優しく叩いてみたら、智くんが反応した。
「・・・めまい・・・」
「めま・・・ああ、めまい、そうか・・・。」
それならしばらくこうしていればいい。
僕は少し落ち着きを取り戻して、せっかく腕の中にいる智くんを優しく包み込むようにして抱きしめた。

誰も見ていませんように。
誰も邪魔しにきませんように。
僕が智くんを守りたい。



「ありがと・・・」
数十秒は経っただろうか。
かすれた声で智くんが言ったのを合図に、僕は腕を少し開いて、智くんはその隙間からするりと抜けて体勢を立て直してしまった。
それと同時に智くんの香りが鼻をかすめる。
今度は僕がめまいにやられそうだった。


「寝不足?もう大丈夫?」
「いや、ちょっと横になる。」
「あ、じゃあこれ。」
僕は持ってきた毛布をくるくると筒状にして、僕のスペースだけを残した位置に固定しながら智くんを促した。
「・・・狭くない?」
「ん、このくらいで大丈夫。」
「翔ちゃん痩せたの?」
「いや、これだけあればちょうどいいよ。」

「・・・・。」
智くんはそのスペースを数秒間じっと見つめてから、ちょこんとソファに腰をおろした。
「そこにいてね。」
「ん?」
「狭くてもそこにいて。早く座れ。」
「ん、ははは。はいはい。」
智くんの命令口調に嬉しくてどうにかなりそうなのに、僕は平静を装って。
「ね?ぴったりでしょ?狭くないのよ。」
両側に手を挟めるくらいの余裕まであるのを智くんに見せつける。


「・・・ふーん。」
智くんはコロンと横になると、両足をくいっと曲げてソファの上で小さくなった。
「狭い?」
逆に智くんが窮屈かもと聞いてみる。
「ちょっと。」
そう言って、智くんはぴくんと背中を伸ばして、毛布の枕を僕の太ももに押し付けて来た。
「おぅ。」

「これでちょうどいい。」
智くんが言って、僕はより一層近くなった智くんから立ち上る香りに、深呼吸したい気持ちをぐっとこらえた。




(つづく)