「さっき松潤に言われた。」
「なんだろ。」
「翔ちゃんが元気ないのは俺のせいかもって。」
「まじで。」
「ふふ。鋭いね。」
「まったく。」
あなたはシートにすっぽりとはまり込んでリラックスした横顔を見せている。
一緒に家路につくことができるなんて、昨日は考えもしなかった。

「けど松潤のおかげで智くんとこうしていられるから。」
「うん。」
ちらっと見ると、とても穏やかな笑顔のあなたと目が合った。
「前見てね。」
「了解。」
「見とれる気持ちは分かるけど。」
「はははははは!」
「ふふふ。」
「でもごめん、ほんとに見惚れてたわ。」
「知ってる。」

僕は本当に久しぶりに大きな声をだして笑った。
やっぱり僕の精神安定剤はあなたなのだと知った。
こうしてポンポンと続いていく会話。
たまにやってくる苦しくない沈黙。
息の合ったダンスを踊る僕らに、自分だけが酔いしれていたのではなくて本当に良かった。
Better Halfというものがあるなら、僕にとってのそれはあなただと、ずっと思っていた。

「あっと。智くんちに直でいいんでしょ?」
「うん。大丈夫。」
「おっけ。」
「朝ごはん作って欲しければスーパー。」
「そっちで。」
僕は間髪を入れずにそう答えた。
智くんの家にお泊りなんて何度夢に見たことか。
「ふふふ。じゃあ、俺んちの手前で右ね。」
「ラジャー。」

お尻の下の方からウキウキが湧き出してくるような感覚だった。
隣に大切な人を乗せていることの緊張感と、ピョンピョン飛び跳ねたいような喜びとで少し混乱した。
これからこんなことが当たり前になって行くのだろうか。
ちょっと非現実的な感覚だった。


でも、頼むからもうすれ違いが起こりませんように。
僕の世界はもう、一度終わりそうになったのだから。
あなたの手を引いて、あなたに引かれて。
僕らのダンスが永遠に続きますように。
少しくらい何かを失っても、あなたとの未来が見える場所にいたい。
本気でそう思った。



「おいで。」
とあなたが言った時、僕はもう一度あなたに惚れ直した。
ちょっとふざけて言ったのは知っていたのに、そのハンサムな声と表情にどうしょうもなく心が踊ったんだ。
子犬のように駆け寄りたかったけど、僕はゆっくりと歩いた。
あなたをまっすぐに見つめながら。
自分のなかで激しく脈打つ体中の血を感じながら。

その間あなたはやっぱり僕を見つめていた。
僕のように緊張や興奮の色は無かったように思えた。
ただ僕があなたにとってとても愛おしい存在なのだということがよく分かった。
それが僕をさらに興奮さるから、あなたの前に立った時、僕は一度大きく深呼吸をした。

「大丈夫?」
「ふ〜。智くんの魅力がえげつない。」
「ふふふ。なに言ってんの。」
「本当だから。心臓発作が起きそうだよ。」
「じゃあ、ちょっと気をつける。」
「そんなこと出来るの?」
「俺だってスイッチ入れることはできる。」
「今入ってるのね?」
「うん。翔ちゃん用のやつ。」

「俺用・・・。」
「俺も長年育ててきた。」
「なるほど・・・。」
意識して呼吸しないといけないくらい、僕はドキドキしていた。
ずっと傍にいたのに、初めての感覚だった。
「ふ〜。それは・・・。す〜、ふ〜。この上ない幸せだよ。ふ〜。」
「ふふふ。まあ、おいで。」
そう言ってあなたが僕の腕をグッと引くと、そのまま僕はベッドに押し倒された。
上から被さってくるあなたの仕草までが美しい。

「智くん・・・。」
「ん。」
「愛してる。」
「ふふ。俺もだよ、翔ちゃん。」
ふわっとあなたの香りがして、僕らは身体を重ね合った。

興奮しきりの身体の一部をなだめながら、そのときはただお互いの体温を感じ合った。
頬が触れ合って、息が混じり合って。
高まりながらも、やっぱりただ抱き合った。


そうやって僕らは、周りから音を消して、もう隙間もないくらい溶け合った。




(おわり)