「今朝はごめんね。なんか取り乱して。」

僕は帰りの車の中で智くんに言った。

「大丈夫だよ。」

智くんは穏やかに応えてくれる。

「でも酷いことも言っちゃった。」

「翔くんはひどいことなんて言ってないよ。」

「でもみんな引いてた。」

「それは、いつもなら翔くんが一番にまとめ役をかって出てくれるからでしょ。びっくりしただけだよ。」

「・・・・」

納得が行かなくて黙っていた僕の手を、智くんが恋人繋ぎしてくれる。

「翔くん、なんて言ったかちゃんと覚えてるの?あんなの悪口でもなければ乱暴な言葉でもないよ。」

「え・・・うんと・・・」

確かに、僕はただあのシチュエーションに動揺していただけで、大した暴言は吐いていないのかもしれない。

(そうか。逆に恥ずかしいやつだな!・・・・なのにみんな優しかったな・・・)

僕は恥ずかしくて、繋いでいない方の手で顔を隠した。

「みんな優しいね。」

「そうだね。」

智くんは本当にもうなんでもないように、いつも通りの話し方だ。

 

考えてみれば、朝からずっと智くんは通常運転だった。

何かに焦って空回りしていたのは僕だけだ。

ふと思いついて聞いてみた。

「智くん。あのさ・・・」

「ん?」

「俺、最近おかしい?」

「いつもオカシイよ。」

「は?いつもじゃないでしょ。最近よ、最近なにか違って見える?」

「・・・わかんない。・・・ちょっとワガママかも。」

「我がまま?」

「なんか、急に黙り込んだり、すねたり?ちょっとキレたり。」

「・・・・」

「でも、そういうのたまにはいいんじゃない?翔くんはいつも頑張ってるからね。メンバーだって分かってくれてるよ。」

僕はそう言う智くんを見つめて、勇気を出して持ちかけてみる。

「我がままついでに、ひとついい?」

「なに?」

智くんはたいして構えもせずに僕の言葉を待っていてくれている。

「俺は2人がいいんだよね。」

「なにが?」

「お花見。」

「あ、そ?」

「あ、そ?って。」

「いいよ。」

「いいの!?」

「うん。いつにする?」

言ってみればいとも簡単に、僕は希望通り智くんと2人きりのお花見が出来ることになった。

 

「なんだ・・・」

つい大きなため息が出る。

智くんは繋いだ手を車内の音楽に合わせてそっと揺らしながら、カーテンの隙間から見える景色を見ている。

(ホントに俺の独りよがりだったんだ・・・ まじ恥ずかしい・・・)

智くんは仕事やメンバーのことになると視野も広いし敏感だけど、自分のプライベートとなるとめっきり鈍感になるのだ。

それに加えて僕のなんとも自己中な愛情。

智くんは一体僕のどこが好きで一緒にいてくれるんだろう。

 

 

 

「あ〜、ほっとする。」

そう言って僕にもたれ掛かる智くんの顔はすっかりプライベートの可愛い智くんだった。

「智くん。」

「なあに?」

僕らは小さな音で流れる自分たちの歌をバックにビールを飲みながら寝る前のひとときを楽しんでいた。

今日は朝から感情がジェットコースター並に上下してきたけれど、もうひとつだけ智くんに聞いておきたいことがあった。

「俺のさ、どこが好きなの?」

ちょっと甘えた声で言ってみる。

「しょおくんの・・・わかんない。」

「えー!わかんないってことはないでしょ?」

「うん。たくさん。」

とろとろの笑顔で言うので抱きしめたくなる。

「たくさんって・・・。具体的にはどんな・・・?」

期待に胸が膨らむけど、落ち着いたふりをして尋ねる。

「えっと、顔。」

「か、顔か・・・」

自力じゃない感がすごい。

「・・・それから、声。それとぉ・・・俺ができないことたくさんできるとこ・・・とかだな。」

智くんはにっこにこで、僕もニヤケが止まらない。

 

やっぱり俺は単純だ。

「俺ができて智くんができないことってなんだろ・・・」

言って欲しいというのもあるけど、知っておいた方がいい気がして聞いてみた。

「っていうか翔ちゃん、なんでそんなこと急にきくのさ。」

僕を見上げて唇を尖らせる。

「え、ダメ?」

可愛い唇にちょっと怯みながらも、僕はやっぱり聞いておきたかった。

「2個ぐらい言えるのあれば、お願いします。」

智くんはビールを一口飲んでから、

「うーん。ふふ。やっぱニュース読めるところかな。スーツでかっこよくキメてさ。それからMCが上手なところ。何時間でも観てられる。」

まだまだ出てきそうな勢いで言葉を並べる智くんに、僕はすっかり嬉しくなっていた。

両方とも慣れだけど、努力してることは確かだし。

継続して知識を備えておける自分を誇りにも思っていたから、智くんが認めてくれたのは自信につながる。

というか、そのままそれが自信だ。

 

「ありがと。」

相変わらず僕の肩に頭をのせている智くんのおでこに、小さな音を立ててキスをする。

「あと、すぐ落ち込むとこも好きだよ。」

「えっ?」

「たまにわざとすることある。」

「わざとするって、なにを?」

身体を起こして智くんが僕を見る。

「ツンケン。」

「はあ?」

「だって可愛いから。」

「えー・・・」

「でもすぐ可哀想になっちゃうから、つづかない。」

上目遣いの智くんが一瞬だけ申し訳なさそうな顔をする。

そして、すぐになんとも愉快そうな笑顔に変わる。

「ちょっとなにそれ・・・・」

(もしや今朝のあれも?)

「ふふふ。あーあ、ばらしちゃった。」

「やられた・・・まじでショック・・・」

そう言いながらも僕は頬が緩んでしまって、心も緩んでしまって、

「智くん、俺は貴方が好き過ぎる。」

なんて言ってしまったら、智くんは僕の頬を両手で包んで、お酒で潤んだ瞳で言った。

「俺もしょおちゃん大好きだよ。」

 

 

 

あんなにちゃんと気持ちを伝え合ったのに、僕らはあの後別々のベッドで眠った。

いや、僕は眠れなかった。

(なんなん?普通ならあのままベッドインでしょ!濃厚熱烈な夜を過ごすでしょ!おやすみ〜♡ってなんなん!?)

僕はちゃんと誘ったし、なんならお姫様抱っこで部屋まで連れていくつもりで気合を入れていたのだけど。

智くんは幸せそうに大きな伸びをして、

「しょおくんは疲れてるからたくさん寝てね。」

ってすっごい可愛い笑顔で言ったのだ。

軽く酔っていると思っていたのに、ペタペタと歩き回って、ささっと片付けまでして引っ込んでいってしまった。

僕は愕然として立ち尽くしていた。

(これってツンデレのツン・・・?・・・・いや、まじでなにこれ??)

 

 

(つづく)