(翔と智ちゃんの恋物語) 嵐 Starlight kiss
「リーダー、おれちょっと今日遅くなりそうだから。」
「あ?そうなの?メシは?」
「いらないと思います。じゃね~。」
言い残してニノは部屋を出て行って、智くんと2人で残された。
しばらくはこのままいよう。
5分くらい。
「智くん、たまには一緒にご飯食べてこうよ。」
5分待てずに声を掛けると、手にしていたスマホから目を上げて、智くんがキョトンとしてる。
「なに?やなの?」
「いや。やじゃないよ。珍しいなと思って。」
「もう何もないんでしょ?」
「ないね。」
「じゃ、行こうよ。」
僕はスマホを操って、何が食べたいかと智くんに尋ねる。
軽いものがいいと答えて、智くんは早速上着を羽織り始めている。
勇気を出せ翔。
断られたって、いつもの智くんでしかないじゃないか。
「智くん。」
「ん?」
「あのー。あのー。・・・たこの刺身。」
「はい?」
「智くんちで食べたいな。」
「え?!」
「あ!いや、おれんちでもいいけど。」
智くんは僕をガン見したまま答えない。
いや、まずいな。
「たこ・・・。たこ・・・食べたいな。」
「翔くんちならいいよ。」
少し考えて智くんが答える。
「マージで?!やっったっ!」
僕は小さいガッツポーズをして、慌てて上着を手にする。
「じゃあ、スーパーでたこと生わさび買ってこっか。」
「おっす!」
ニノがいないときじゃないとな。
この時を待っていたぜ。
智くんと僕は、近所のスーパーでたこと生わさびの他にもビールとつまみを数種類買って、夜道を歩いている。
荷物はひとり一袋。
頭上では星が輝いている。
僕の中での最近のナンバーワンの出来事だ。
この日のことを、いつか2人で話したいものだ。
メンバーの前で。
「翔くん、結婚しないの?」
突然智くんが聞く。
不意をつかれた僕は少し慌てて答える。
「し、しないよ。」
「なんで?」
「・・・それは・・・。」
なんと答えよう。
僕にはずっと好きな人がいる。
あー、もう!
なにを隠そう、智くんだ。
だけど、智くんは今ニノと暮らしている。
付き合っているとか、そういうことではないらしいが、僕は相当妬いている。
だって結婚してるみたいじゃないか。
智くんとニノ、俗に大宮と呼ばれるあの二人は、なにしろ仲がいいのだ。
だから・・・というか、まあ他にも理由はあるが、智くんにはこの気持ちを伝えていない。
いや、冗談半分で言ったことはある。
あのときは・・・
「翔さん、翔さんのはまだ聞いてなかったな、結婚したい人のタイプ。」
「女じゃなくてもいいんでしょ?」
「え!?あぁ、まあ、そういうことなら、別にそれでもいいですよ。まだできないですけどね、日本じゃ。」
「うん、まあ、そうなんだけど。俺は~・・・タイプっていうか・・・智くんかな・・・。」
「リーダー!?名指し?なんで?」
「やっぱ・・・可愛いかな・・・なんて。それだけじゃ、ないけど。」
「え・・・。」
「いや、でも待って、ニノも可愛いしな!松潤はかっこよくていいな・・・。相葉君は・・・。・・・。」
「いや、相葉さんだけすぐ出てこないじゃないですか(笑)。」
な~んて会話を松潤とニノとでしていたのを、智くんはニノの隣で聞いていた。
あのときの一瞬だけ照れた顔を僕は見逃さなかった。
顔が赤くなって、目がうるんで・・・る様に見えて、ごまかすように笑っていたっけ。
智くんも僕を好きかもしれないと、あのとき初めて思った。
だから、余計にこの気持ちに拍車がかかってしまったような気もする。
僕はとにかく、ずっとずっと、智くんが好きなのだ。
「翔くん?」
歩みの遅れた僕を智くんが振り返る。
「あぁ、ごめん。」
「どした?」
「うん。なんでもないけど。」
「俺、好きな相手がさ、結婚はだめなんだよね。
ああ、その前に多分、片思いなんだけどさ。」
「好きな人はいるんだ?」
「うん。ずっと。ひとり。」
僕は智くんをまっすぐ見つめて言った。
伝わって欲しくて、まっすぐと。
智くんは、ふふふ、と小さな笑い声を漏らして、
「俺もずっと好きだよ。」
と言って立ち止まる。
急だったから僕はそこから二歩ほど進んでしまってから、振り返って智くんと向き合った。
智くんの放った言葉の意味をフル稼働で考える。
智くんは僕を見ていたけど、ふと視線を下にずらして、おでこに手を添えるあの仕草をしている。
僕の恋心をくすぐろうとしているとしか思えない。
今しかない。
僕は離れていた二歩を縮めて、智くんの肩に手を掛けた。
智くんが僕の顔を見る。
うるうるの瞳に堪えきれずに、リップで湿った智くんの唇に自分の唇を重ねる。
智くんはよけもせず、受け入れてくれている。
目眩がする。
現実ではないかもしれない、だけど身体が震えるくらいに嬉しい。
飛び出しそうな心臓を支える代わりに、智くんに触れる手に力を込めると、智くんの空いている腕が僕の腰に回されて、唇が離れていく。
待って!
智くんは僕の目をのぞきこんで、
「俺なの?」
と聞く。
「もう一回してもいい?」
僕は返事を待たずにもう一度口づける。
智くんはやっぱり抵抗せずに、むしろキスを返してくれているようだ。
やばい。
幸せが過ぎて、狂ってしまいそうだ。
誰よりもなによりも、智くんが好きだ。
このままでは、やばい。
なにがやばい?
とにかく、やばい。
唇を離して、おでこをつける。
智くんの綺麗な形の鼻が目の前に見える。
「翔ちゃん。」
「はい。」
「どうするの?」
「どうしましょう。」
「・・・食べようか。」
「食べましょう。」
僕たちはおでこをくっつけたまま、少し笑って、体勢を変えると、手を繋いで歩き出した。
手を繋ぐのは久しぶりだ。
昔はよくこうしていろいろなところを歩いた。
仕事中でも、周りにメンバーやスタッフがいても。
僕はいつでも、繋いだ手から精一杯智くんを感じるようにしていた。
あの感覚が蘇る。
そして今、念願の智くんとのたこわさを食べに、僕の部屋に向かっている。
そこでもう一度キスをしてもいい。
いや、したい。
一緒に朝を迎えたい。
今日は無理でも、必ずいつか。
見上げると、さっきより輝きを増した気がする星空が、最高にロマンチックだ。
「空見て。」
「おお、すげえ。」
「今俺、あの歌みたい。Starlight kiss。」
「え?ふふふ。」
「俺しかいらない?」
歌詞に出てくるフレーズのことだ。
もちろん。
「智くんしかいらない。」
ふにゃっと笑った智くんの、繋いだ手に力が込められた。
ずっとあなただけだ。
この先もずっと。