嵐 Winter days

 

 

俺は今、「冬は嫌い」と言うくせに、寒い日に手を繋いで歩くときの笑顔がキラキラしてるのはなんで?

って質問の答えを彼女の口から聞きたくてうずうずしている。

いや、その答えよりも、照れてるときの表情が見たいのかもしれない。

まあ、つまり、今俺はデレている。

 

久しぶりのデートだからではない。

例えば毎日会っていたとしても、俺はデレているはずだ。

それくらい、俺は彼女にぞっこんだ。

ぞっこんは古いと言われても、他にちょうどいい言葉が見当たらない。

伝えやすい、とてもいい表現だと思っている。

 

彼女とはもう一年ちょっと付き合っている。

俺と彼女の出会いにドラマチックな部分は微塵もない。

他人から見れば。

ただ、「こんなに寒い冬に天使が舞い下りてきてしまった!」と、俺は真剣に思った。

対面するのに、着ている服が汚れていないかを、瞬時にチェックしたくらいだ。

そして、見つけた糸くずを取る暇もなく、お互いの紹介を始めた。

彼女は同僚の彼女の親友だった。

そのまま同僚カップルを2人きりにする手はずだったのだが、俺は断固と無言でそれを拒否して、彼女を巻き込んで居座った。

まあ、つまり、俺の一方的なひとめぼれだった。

たまたま同僚と歩く方向が同じだったってたけで、こんな奇跡はあったもんじゃない!

と、今でも思っている。

 

「雅紀くん?」

「あ?はい?」

「ちょっと腕振り過ぎです。」

 

からかうような笑顔で彼女に言われて気づけば、嬉しすぎてぶんぶんに繋いだ方の腕を振っていた。

だから、俺は今、デレているから!

 

「すんません。ごめんね。痛かった?」

「大丈夫だけど。」

 

可笑しそうに俺を見上げてくる顔も、一緒に振っていてくれた事実さえも愛おしいじゃないか!

 

「冬っていいな~!」

「えぇ?良くないでしょ?寒いでしょ。」

「いいや!いい!」

「えええ~?」

 

少し不満そうな横顔を記憶に閉じ込めながら、俺はやはりデレている。

 

いや、実際、実は、秋も夏も春も、彼女といる季節は全て好きである。

冬はまだまだ続くから、とりあえずは冬だけど、春が来て夏が来て、秋が来てそしてまた冬が来て、四季の移ろいにも負けずに俺は彼女を愛し続けるだろう。

その時々で、理由はどんどん増えるだろうけど。

 

「今年の冬もよろしくね。」

 

俺が言うと、彼女は一瞬不思議そうな表情をしてから嬉しそうに微笑んで言った。

 

「そして来年もね。」