「え~~~!なにそれ??」

「いや、ごめんホント。俺たち気付かなくて。男ってダメだよな~。」

 

雅紀くんは苦い顔で頭をかきかきしている。

 

私はとりあえず黙って考えていた。確かに男ってダメかも。

みんな清潔だし、まめだし、話は面白いし、私はいつでもとても幸せで、彼らのせいでストレスを溜めるなんて滅多にないことだと思っているのに、それにはまるで気付いていない。

 

問題があるなら、私は5人を好き過ぎた。このままでは、誰ともお付き合いなんてできないに違いない。ましてや、ここで一緒に住む智くんとなんて、ありえない話だ。

 

今夜本当は、智くんに告白しようと思っていたのだ。とりあえずはお預けみたい。私の気持ちなんてかすりもしないのかもしれない。

腐りかけたとき、雅紀くんが言った。

 

「けど、このままじゃ、取り合いだな。」

「取り合い?なんの?」

「俺ら5人とも、たーちゃんのこと好きだから。一緒に住むってなったときも、抜け駆けはしないって、決めてたのにさ。」

「あ~、抜け駆け。・・・・・・って、はい?」

 

ばっと音がしそうな勢いで雅紀くんに顔を向けると、そこには背中を丸め、また大きな手で顔を隠している彼がいた。

 

 

そんな突然の雅紀くんの告白の後、なんとか体勢を立て直して一緒に学校に行った。

何も無かったように、テレビの爆笑場面の話をして、キャッキャッはしゃぎながら電車で3駅。歩いている間もいつもと変わらない空気感に、私は心底ほっとしていた。朝からの翔ちゃんといい、雅紀くんといい、私はもう彼らを失うことなんてきっとできないと感じていたから。

 

キャンパスに入るや否や、潤くんが駆け寄ってきた。

 

「雅紀ぃ~、なんだよ一緒だったのかよー。」

 

私は少し緊張してしまった。雅紀くんは「俺ら5人とも」って言ってた。それはもちろん潤くんも含めてだ。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、潤くんが顔を覗き込んでくる。

 

「夕飯、もう決めたかい?」

 

つい瞬きが多くなる。

 

「あ・・・忘れてた。あ、でもカレーはどう?みんな大好きだし、しばらくやってないじゃん。」

「おお!いい考えだ。」

 

「にやり」と効果音が付きそうな笑顔で、私の頭をポンポンする。私は昔からこういうのに弱い。背が高めのせいか、長い間いわゆる女の子扱いをされないで来たから、たまにそうされるとトキメキを抑えられなかった。

潤くんは女の子を女の子らしい気持ちにさせるのが上手。あまりたくさん話をしないけど、こんなことがある度に、大好きだなぁって思っていた。

 

「じゃ、俺もう講義終わったから、ゆっくり買出ししてうちに戻ってるわ。雅紀、帰りもちゃんとエスコートして来いよ。」

「え~、大丈・・・」

「分かってるよ!」

 

私の言葉にかぶせるように雅紀くんが言うと、潤くんはチロチロと手を振って去っていった。

 

「たーちゃん、俺今日6限まであんのよ。一緒に受けちゃう?」

「え~、やだよぉ。本屋さん寄りたいから、先に帰ってると思う。でも、ありがと。」

「まじかー。俺が潤に怒られんだぜ~。じゃ、気をつけて帰ってよね!うちでね~!」

 

なんて言いながら満面の笑みでニコニコ手を振ると、ちょうど出会った友達と一緒に校舎に入っていってしまった。

 

雅紀くんは、素直な上にさっぱりしている。私との共通点は人見知りなこと。初めて会った日も、ニノがいなければきっと話もできていないに違いないくらい、軽い上目遣いで静かに微笑んでいた。打ち解けてくればよく笑って、よくはしゃいで、とても明るい。でも時々ふと真顔になったときのセクシーさは誰にも負けない。とても綺麗な顔つきだし、そんなときはハッとさせられるのだ。

 

 

教室に入って後ろの方の席につくと、後ろから肩をたたかれた。ニノだった。涼しい瞳と、少しだけあがった口角。大好きな笑顔だった。

 

「今日はモグリ。心理学、来期に取ろうか迷っててさ。」

 

ひそひそと言う声が、耳に心地いい。

 

こんな時、隣りに座らないのがとてもニノらしい。私にプレッシャーを感じさせない程度の斜め後ろに陣取っていた。彼はいつも、一歩下がったところで全部に目を光らせている。場を和ませたり、取り繕ったり、彼の観察眼は回転のいい脳と共に私たち6人の平和を守っている。

カラカラとよく響く笑い声は、なんだかとても安心したし、危うく気付かないほどに速いウィンクはとてもセクシーだし、透明な、子どものようなすべすべ肌には似合わないくらいに、男らしいところがあった。

 

「でも、あの教授、ちょっと声がでかいんだよな。」

 

と訳のわからないいちゃもんをつけながらもノートを用意すると、眼鏡をかける。真面目なんだよね。口だけはいつも文句をいうけれど。ニノが約束を破ったり忘れたりしたという話を、私は聞いたことが無い。

 

「あ、そうだ。ニノ、朝ごはん。ありがと。美味しかった。」

「あー。はい。智のやつが手伝えって言うからさ。お礼なら智に言って。」

「智くんにも言うけど。ニノもありがと。」

 

眼鏡の奥で、あのさりげないウィンク。私はきっと5人に弄ばれているに違いないと、そのとき胸を撃ち抜かれたようなトキメキと共に思った。