朝起きると、食卓には私の大好きなものばかりが、きちんと並べられていた。
ソファで新聞を読んでいた翔ちゃんに聞くと、朝早くに智くんとニノが作ってくれたと言う。
「なんか嬉しそうにやってたぜぇ。たーちゃん、喜ぶな~。うしし。とか言いながら。いたずらしてんのかと思ったくらい。」
と口調を真似て笑う。そんな2人を想像しながら紅茶を入れて座るころ、翔ちゃんが食卓に移動して来ていた。
「俺はここで見てる役。」
「見てる役?」
「いや、なんでもない。召し上がれ、お姫様。」
首をかしげながら手を合わせて挨拶をする。翔ちゃんはニコニコしたままで私を見ている。食べ始めてもほぼ同じ顔のまま、動く様子もない。
「あの、翔ちゃん?悪いけど、どちらかというと見られていないほうが・・・。」
「いいの、いいの。俺はたーちゃんのこと見ていられればそれで幸せなんだから。・・・あっ、待てよ、それがストレ・・・」
「はい・・・?」
1人でなにやら取り乱す翔ちゃんの、あまりにも優しいのにどこか可笑しい笑顔と仕草に、思わず噴き出しそうになる。そんな私を見て、落ち着きを取り戻した翔ちゃんの笑顔は更に優しくなる。私は底知れない心地よさに包まれて、みるまに食事を終えてしまった。もう少し、ゆっくり食べればよかった。
翔ちゃんが出掛けると同時に、雅紀くんがジョギングから帰ってきた。激しい汗。
「あー、あっちぃ!ただいま~。シャワー頂きまーす。」
バスルームに向かいながら言ったと思うと、急に立ち止まって振り向いて、
「たーちゃんまだ出掛けないでしょ?今日一緒に行こうよ。3限からでしょ?ちょっとだけ待ってて、ごめん。」
珍しい誘いにきょとんとしてしまった私を置いて、雅紀くんはシャワーを浴びに行ってしまった。
(なんだ?今日はみんな少し違う動きをしてるような・・・)
そこに小さな機械音がして、今度は潤くんからメッセージが届く。
たーちゃん、おはよ
よく眠れたかい?
今晩俺ご飯作るから
何食べたいか考えといて
後で学校で会うかもね~
潤
(はい~~~???)
ご飯を作ってくれることは珍しいことではなかったけれど、何が食べたいかなんて聞かれたことはなかった。しかも、絵文字・・・
(私自分の誕生日忘れてるとか?)
メッセージの画面を見つめながら首をかしげていると、もう雅紀くんが薄茶色の髪の毛をタオルで拭きながら歩いてくる。白いVネックのTシャツがまぶしい。
「あー、気持ちよかった。」
「雅紀くん?あのさ、なんか、今日みんな変じゃない?今日って何か特別な日だっけ?私忘れてる?」
なんとなく引きつった笑顔で雅紀くんは答える。
「なになに?みんなが何したの?」
私は朝からの出来事を雅紀くんに話しながら、きっと全部知っているんだろうな、なんて考えていた。雅紀くんは心の中を読みやすい相手だ。5人の中では抜群な素直さで、人をだますことなんて出来ないタイプの人。
「でも、雅紀くんもう知ってたでしょ?何が起こってるの?」
げっという顔をして、大きな両手で顔を覆うと、足をばたつかせながら叫びだす。
「あぁぁぁ~!だから最後が俺じゃ無理だって言ったんだ~!!」
その日の早朝にはこんなことが起きていた。
一番早く起きた智くんは4人で会議を開くべく、ひとりひとりを起こして回った。私を起こさないように一番離れたところにある潤くんの部屋に集まると、智くんは切り出した。
「たーちゃんが、また眠れなかった。もう10回目だぜ。」
翔ちゃん「まじか。」
潤くん「やべーな。」
ニノ「どうする?」
雅紀くん「え?なんで?なになに?」
智くん「昨日一緒にココアを飲んだ。ほいで理由を聞いたんだけど、どうやら気持ちを整理して今夜教えてくれるらしい。」
ニノ「追い出されるかな。」
翔ちゃん「あるかもな。」
雅紀くん「え!?なんでよ!?」
潤くん「おまえ声でけぇよ。」
5人は更に顔を近づけてこんな話をした。
つまりは私は男ばかり5人も背負い込んでしまったため、リラックスできていない。たまに眠れなくなるのは、ストレスをギリギリまで溜め込んでいるのに、優しすぎて爆発できないせいだ。今日からはもっと、リラックスしてもらえるように努めよう。さもなくば、今夜でこの部屋ともおさらばだ。