目があいた。


見えるのは真っ白な天井らしき物。


左手がじんじんと痛む。


すぐに病室だと気づいた。


何故?どうしてなの?


私は向こうの世界には行けなかった。


それがとても悲しくて涙がぼろぼろあふれ出した。


顔を少し右に向けると、


ベッドのすぐ側には見慣れた隆がうたた寝していたが


私の嗚咽に気づくととび起き、


そしてやさしく私に覆いかぶさった。


「菜月!気づいたか。良かった。本当に良かった」


泣きながらそう言う彼に、


私は何も言えずただ泣いていた。




しばらくして、涙は枯れた。


喉があまりに乾いていて声を出すのも辛かった。


隆に水を飲ませてもらい、ようやく落ち着いたところで


彼が話し始めた。



「お前、なんでこんなバカなことしたんだ。


子供ができた事、そこまで一人悩んでたのか?


そうなんだろう?」。


私はわけがわからなかった。


「心配するな。結婚しよう」


「子供って、何の事?」


「お前、知らなかったのか?じゃあ、なんで・・・」


「妊娠してる?」


あまりの驚愕にそう呟いた。


「18週目だと医者が言ってた。


俺はものすごく嬉しい。 二人の子だ


結婚して一緒に育てよう」。


満面の笑みの隆に、


私はまた、泣くしかなかった。

















1年前、すべてに絶望し生きる望みを失った。


それからたびたびリスカの繰り返し。


でも未練なのか深くは切れなかったが、


あの日だけは違ってた。



9月の終わりのこと。


茜色の夕陽はまだ夏の強さを持ったままのように輝き、


まわりの白い雲を染めながら


のろのろ下へ下へと降りていた。


そして、それはとても美しかった。


一人暮らしの家はちょうど夕陽の方角で、


眩しすぎていつもならすぐ地下道に入ってしまうのだが、


あの日だけは違ってた。


顔を太陽に向け、目を細め歩き出した。


夕陽に向かって歩いている途中


すべてを終わりにするのはこんな日がいいようだ。


そう、思った。



一人暮らしのマンションの部屋は真っ黒で、


カーテンを開けると、さっき見た夕陽が


こころなしやさしい色して私を迎えた。


いつものためらいも未練も何もなかった。


肩にかけていたバッグを下すと


私は浴室に向かった。


剃刀の刃を左手首にあて思いっきりひいた。


鋭い痛みさえ喜びだった。


これで、消えることができる。


もう心は痛まない。


本当に来世があるのなら、もう二度とこんな人生は送らない。


真っ赤に滴る血は、生成りのワンピースにじわじわ広がり、


染まっていった。



人は死ぬ前に過去を走馬灯のように見るというけれど、


そんな物は何一つ見えなかった。


あの人の顔さえよく思い出せなかった。


もう、何も考えることができない。


頭痛、吐き気、脱力・・・


記憶が、消えた。







この子を産もうとしたのは


愛ゆえ、それとも復讐だったのだろうか?


”Love&Hate”


愛は時に異常な残酷ささえも併せ持つ。


いいえ、違う、違うのだ。


この子は、神様がまだ私に生きなさいとつかわせた賜物。


この子は私のすべて。


この子は希望。


これからまたどんなことが起きても


この子さえいれば私は生きていける。



保育器に入れられた光を見ながら私は泣いた。


「ごめんね、ごめんね・・・ひかり」。


1900gで生まれたとても小さな私の娘。


愛した男の名を一字もらい、私は光と名付けた。


「ごめんなさい。


こんなに小さくしか生んであげられなかった。


生まれて初めての場所が保育器の中だなんて・・・。


でも、これから精一杯あなたを育てるから、


精一杯愛するから・・・


貴女が抱えきれないほどの幸せを


その手に持たせてあげるからね。


ひかり、頑張るんだよ」。