(BL小説/OS/お山妄想)
(5)管理人さんと一緒に
長い時間、1人で生きてきて。
人をたくさん殺したし。(吸血鬼も勿論)
戦争もしたし。
争いは、多かった。
今だって、テリトリーを守るのに、それなりのことがある。
俺らは、どこから来たんだろうか。
親だっているわけじゃない。
兄弟も、仲間もいない。
王のようになった時代もあるし。
企業のトップになった事もあるし。
やれる事は、色々やったけど。
何も残らない。
大好きな人間は、すぐ……みんな死んでしまうから。
楽しい事だけ。
面白い事だけ。
それだけじゃ、生きてゆけなくなったから。
別に何か、目的が有ったわけでも、理由が有ったわけでもない。
ただ、そばに居たいなって思ったから。
この場所にいるだけ。
優しい人間の子供たちは、可愛いから。
**
「翔ちゃんは、知ってる? 大野さんて、いつから管理人さんなんだろうね?」
「さあ、どうかな? 聞いたことないな。でも、若いから最近じゃないかな?」
たくさんいた食堂の生徒は、ほとんどいなくなった頃。
お昼休み、相葉君と管理人さんの話になった。
相葉君は、優しいから無理に色々聞いて来ない。
管理人さんは、俺の恋人だって知ってからも、態度は変わらない。
たまに、『翔ちゃん、今日は可愛いね』ってチューされるけど。
それは、必ず管理人さんに愛された日の朝だったりするけど。
「ねえ、これからどうするの?」
「ん? 午後からは、確か……」
慌てて授業の予定をスマホで確認しようとしたら、笑って相葉君がその手に、自分の手を置いて止める。
「違うよ、翔ちゃん」
「違うの? じゃあ、なんのこと?」
相葉君が、楽しそうに、1人で笑ってる。
「いや、まだ早いか。管理人さんとこれから、どうするのかなあって、思ってさ」
「これから?」
「翔ちゃんは、これから大学行ったり、仕事したりするのを、管理人さんは待てるかなって」
「管理人さんは……」
これからなんて、考えて無かった。
「考えてなかったな。」
ずっと、一緒にいてくれるのかなって、きっと相葉君は優しいから心配してくれてる。
「ごめん、ちょっと思っただけ。ほら、管理人さんて謎の人だからさ」
「うん、そうだね」
「なんか、もう少し何か欲しいかな。ちょっと甘いの買って来るから待っていて?」
元気が無くなった俺のために、きっと好きなお菓子を探しに行ってくれた。
恋に夢中で、色々手に付かなくなった俺が……心配なんだろうな。
優しい相葉君の後ろ姿を見ながら、大野さんの綺麗な横顔が浮かんだ。
たまに、寂しそうな背中を見ることがある。
俺より大人だから、色々あるんだろうなって思うしかできない。
何も、大野さんの事は知らないから。
いつか……聞けるのかな。
*********
「おっ、翔ちゃんお帰り。どうかした?」
俺の顔を見ると、すぐに何か有ったかと気にしてくれる、優しい大野さん。
「ううん、無いけど」
「そう?」
大野さんは、ニコニコしていて、今日はいつもより明るいな。
「翔ちゃん、今から出かけない?」
「え? でも、夜の外出は禁止じゃ……」
「俺と一緒なら大丈夫だよ。綺麗な場所を見に行こうよ。翔ちゃんとデートしたことないから」
そう言われて、私服に着替えると大野さんと、初めて夜のお出かけになった。
夜の街は久しぶりで、嬉しくて。
子供の時の気持ちに似てる。
「海と夜景が見える場所に行こうか」
大野さんがそう言って、連れて行ってくれた高台の公園は、デートに来た人たちがいっぱいだった。
でも、公園はとても静かで。
みんな2人きりの世界にいるんだろう。
遠くに暗い海が見える。
船の灯りと、港の建物の灯り。
その手前に広がる街の夜景は、広くて綺麗だった。
「綺麗だね? 大野さん、よく来るの?」
「昔は、来たけど最近は無いかな。翔ちゃん見たいかなって、思ったから」
「うん、嬉しい。一緒に来られて」
素直に言うと、良かったって言って、大野さんも嬉しそうに笑ってくれた。
でも、夜景がなくても一緒にいるだけで、嬉しいんだけど。
それって、変かな。
「翔ちゃんの時間は大事だから。楽しいことを沢山させてあげたいんだよ」
「時間?」
時間が無いってこと?
それって、いつか別れるからって事?
なんか、泣きたくなった。
「なんで、泣きそうなの?」
大野さんがビックリした顔で、抱き寄せてくれた。
「……大野さん、すぐ別れる気なの?」
「え? なんのこと?」
「時間て……」
大野さんは、ちょっと考えて笑った。
「……ああ。違うよ? 翔ちゃん。可愛いなあ」
「俺って、女々しいみたい……ごめん」
「翔ちゃん、面白いなあ。そういう意味じゃないよ? 翔ちゃんたちの時間は、すぐ過ぎてしまうのを見てきたから」
「……?」
「わかんないよね?」
「あの……ずっと一緒にいられる?」
「翔ちゃんがいて欲しいだけ、ずっといるけど? いや?」
「良かった。すぐ終わったらどうしようって思っちゃった」
俺って、なんだか恥ずかしい。
顔の赤いのが、自分でわかるよ。
これじゃ、乙女すぎじゃない?
嫌われないかな?
「逆だよ。いっつも人は、俺を置いて……いなくなっちゃうから」
「いなくなる?」
「楽しいこと、感動すること、一緒に全部しようね?」
あんまり綺麗な顔で言われるから、ドキドキして、ただ頷くだけだった。
ずっと、一緒。
そんな言葉が、こんなに嬉しいとは、思わなかった。
本当に恋人になってくれたんだなって、心から思った夜になった。
******
長い時間、1人で生きてきてわかった事がある。
同じ人が、1人もいない様に、同じ時間も、瞬間も無いってことだ。
いつか、みんな……いなくなってしまう。
だから、愛してる子は、一瞬でも大切にしてあげたい。
笑って過ごさせてあげたい。
綺麗なまま、一生守ってあげたい。
きっと、それが俺たちみたいな、命に生まれた者の使命だと、わかったから。
……この子に会ったから、分かったんだ。
静かに、一緒に生きてゆきたいと、心から思う。
それだけが、この世の唯一の大切なことだから。
<管理人さんと一緒に・end>