(BL/OS/お山妄想小説)

 

 

(4)管理人さんと声

 

 学生寮にも、やっぱり朝が来る。

 

さすがに、授業を二日も休んでしまっては、いけないと思った櫻井少年は、必死でベッドから這い出た。

 

「い……痛……っ」

 

恋人になったばかりで、まだ慣れない……恋の行為は辛い。

一晩中、恋人に愛された体は、ボロボロだった。

 

正確に言うと、気持ち良すぎて、取り返しが付かないでいる。

お年頃の少年の悩みは、この恋ひとつになってしまって。

勉強も、将来も頭から消えてしまっている。(恋の病のひとつである)

 

この二日……考えるのは、管理人さんの事ばかり。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

授業のために、教室に行くと相葉が飛んで来た。

 

「翔ちゃん!」

 

「相葉君……ごめんね? 休んじゃって。昨日のノート貸してくれる?」

 

「ノートなんていいからっ。昨日さ、翔ちゃんのお見舞いに行ったら、面会謝絶だって管理人さんに言われたけど、大丈夫?」

 

「え……」

 

管理人と聞いて、動揺して持ってるものを、全部落としてしまった。

 

「うわーっ! 翔ちゃん! 大丈夫? まだ、休んでた方が良いんじゃない?」

 

櫻井は、首を振りながら、真っ赤な顔で、落としたものを拾い出す。

 

「だ……大丈夫だよ……」

 

「でも、なんだか目は潤んでるし、顔は赤いし、腰も痛そうだよ?」

 

「……いや、その大丈夫だから」

 

なんとか、席に着いたが、座ってるのも辛い。

だんだん、眠くなってしまって、気が付いたら机に突っ伏して眠っていた。

 

夢の中も、管理人さんが出て来た気がする……。

 

 

 

******

 

 

 

フラフラの櫻井を心配して、相葉が学生寮までついて来た。

もう、眠くて疲れもピークだった。部屋に入るなり、ベッドに寝かせてもらう。

 

「ごめんね、相葉君」

 

「大丈夫だよ、カバンと昨日のノートここに置くからね」

 

櫻井が、目を瞑っていると、額に冷たい手が置かれて目を開けた。

相葉が、心配して熱がないか確認してるようだ。

 

「熱は無いね……。なんか欲しいものある?」

 

思わず、頭に『管理人さん』と出てきて焦ってしまう。

 

(俺って、どんだけ……)

 

相葉が、ゴロンと櫻井の横に寝転んだ。

 

「なんか……翔ちゃん違う人みたい。すごく色っぽいんだけど?」

 

うつ伏せになって、櫻井の顔を近くで覗き込む。

 

「え……そんな事ないよ」

 

「言ってみてよ? 本当は何か有ったよね?」

 

「それは……」

 

顔が、真っ赤になっていくのが分かった。

 

「翔ちゃん、恋人できたの? 実は……変な噂を、昨日聞いたんだけど……」

 

ドキッとして、目を見開いてしまう。

 

「翔ちゃんの部屋からか、管理人さんの部屋からか、わかんないけど。恋人がするような事の……声が聞こえたって」

 

相葉が、ジッと見つめる。

追い詰められて、どうしていいか分からない。

 

「すごく、可愛くて色っぽくて、でも男の子の声なんだって」

 

櫻井は、言葉に詰まったまま、目が潤んでくる。

 

「翔ちゃんのことなんだね? ……そんな色っぽい顔になっちゃって」

 

相葉は、フッと笑うと櫻井の顔を両手で持つと、キスしてきた。

思わず、目をつむってしまう。

仲のいい相葉を拒むことは、何だか、できなくて。

 

何度か小鳥のような可愛いキスをすると、ごめんねと、相葉が笑って離してくれた。

 

「ごめん。あんまり別人みたいに可愛くなったから、チューしちゃったっ。翔ちゃんの恋人って誰?」

 

 

 

 

「俺だよ」

 

「うわっ!」

 

気が付くと、目の前の椅子に、音も無く管理人さんが座っている。

 

「管理人さんっ? えっ?」

 

「おまえも、翔ちゃんと付き合いたいの?」

 

「すっ、すみませんっ、俺帰ります! 翔ちゃんっ、またねっ!」

 

静かに座る管理人の大野を見て、慌てて相葉が帰って行った。

 

 

 

 

「大野さん……いつの間に?」

 

「びっくりしたの? ずっといたけど」

 

生き物の気配が無かった。

 

管理人……大野は、昼間は優しげな綺麗な人だ。

 

「俺も、相葉君も……気が付かなかったよ」

 

櫻井は起き上がって、嬉しそうに笑った。

数時間前まで一緒だったのに、もう恋しかった。

 

櫻井の隣に大野も座り直した。

 

「あの……キスしちゃった、ごめん」

 

気まずそうに話す、俯いた少年に微笑んで、大野が言う。

 

「いいよ? 翔ちゃんが好きな人間となら。抱いたって、抱かれたって、好きにしていいよ?」

 

「ええっ! ど、どうして? 浮気じゃん!」

 

思わず、大声を出してしまうが、大野は笑っている。

 

「違うよ。翔ちゃんは全部が、俺のもんだから」

 

「どういう意味か、わかんないよ?」

 

「翔ちゃんが、したいことしていいよ」

 

「……?」

 

大野は、不思議そうな櫻井にゆっくり口付ける。

一瞬でカッと、身体中熱くなってしまう。

 

「ふふ……翔ちゃん可愛いな」

 

「大野さん……」

 

恥ずかしくて、嬉しくて、感じて困る。

ドキドキする。

腕に、胸に縋りたいのに、上手く言えないし、できなくて固まってしまう。

 

「ダメなのは、二つだけ。俺の許しなく死ぬこと」

 

そう言いながら、櫻井の髪を指で、撫でていく。

 

「もう一つは、俺以外の吸血鬼のモノになること」

 

「え……?」

 

そう言って、櫻井の首筋を軽く噛む。

 

「んあっ……!」

 

身体中が、甘く痺れて、感じて、声が思わず漏れた。

 

『吸血鬼』という言葉は、頭から飛んでしまう。

 

「ああ……」

 

「翔ちゃんの感じた声は可愛い……」

 

そういう大野の声は色っぽくて、聞くだけで、下半身が熱くなるような……良い声だ。

 

「大野さん……俺……」

 

堪らなくなって、大野に抱きついて、ねだってしまう。

 

「すごく、翔ちゃん、可愛くていい子だな」

 

 

その声に、その瞳に、ただただ、恋して。

 

その綺麗な指に、体に、あとは、溺れるだけだった。

 

 

 

<管理人さんと声・end>