(BL/MS/潤翔妄想)
side 潤
いつも通りの時間、家に帰るとリビングで翔がテレビを見てる。
無防備に座った後姿が、可愛い。
俺と兄弟で、翔は兄貴になる。
でも体は、翔は見た目より痩せて細いし、顔も似てない。
部屋着のロングTシャツに、短パンからのぞく綺麗な長い足は目の毒だ。
親たちは、今夜は留守だから、翔と二人きり。
俺にとっては幸せで、でも……怖い夜だ。
「翔、告白されたって?」
優しく聞くと、ビクッと震える。
そして、そっと怯えたように振り返った。
「潤……なんで? 誰に聞いたの?」
「いや、振られたって騒いでる奴がいてさ。みんな知ってる」
「……勘違いだよ、俺を好きになるなんて」
翔は、何だか元気なく、テレビをまた眺め始めた。
いつも告白されたり、そういう関係のことが有ると、目を合わせてくれない。
多分、本人は分かってないだろうけど。
「なんか飲もうかな、翔もいる?」
「うん……コーラ」
ドリンクを取るついでに、冷蔵庫を調べる。
可愛い兄は、好きなものしか食べないから。
「何を作ろうかなあ……」
翔は、俺の作る物が何でも美味しいと言ってくれるけど。
できれば、美味しさに驚いた顔が見たい。
俺より年上なのに、翔はまだ恋人もいない。
俺が、遊んだり恋人を作って忙しかったのとは、正反対だ。
……なんで?
モテるのに。
そう思うけど、もし翔に恋人なんて出来たら、きっと冷静じゃいられない。
綺麗な可愛い、まだ清らかな翔は、俺の密かな恋する人だから。
――――
「美味しい! 潤のこれ、初めて食べるよ?」
「ふふ……美味しい? 良かった」
やっと元気そうになった翔と、食後は並んで、映画を観ることにした。
「いつもの勉強しなくて良いの?」
「うん、映画見る約束してたし」
有名なパニック・ホラーの映画。
翔の好みじゃないのに、少し前に俺が観たいと言ったから。
自分は、これでもお兄ちゃんだと言いたげに、時々翔はこんな行動をするんだ。
……俺にとっては、もうずっとお兄ちゃんじゃないけどね。
「偶にだから、ビール飲む」
「潤飲むの?」
「外で友達と、よく飲むよ」
「じゃあ……一緒に飲む」
缶ビールを乾杯して、映画を見始めた。
面白くなって夢中になってると、翔が固まってるのに気が付いた。
「翔?」
顔を覗き込むと、青い顔で俺の腕にそっとくっついてくる。
必死で目を開けてるけど。
「翔……怖い?」
「こ……怖くないけど……ちょっと寒いから……」
いやいや、微かだけど、震えてるし、顔色悪いし……可愛いんだから。
「寒いなら、ほらこっちに、おいで」
翔を俺の足の間に座らせる。
そして後ろから、抱きしめて映画を観た。
大きな音がすると、ビクッとするし、悲鳴がすると、固まって観てる。
可愛すぎて、映画なんてどうでも良くなった。
怖いのを悟られたくない翔は、気が付けば、ビールを結構飲んでしまっていた。
やっと映画のエンドロールが始まった。
もう夜も深い。
「終わったね翔……? ん?」
上目遣いで、俺を振り返った翔は、かなり酔っ払ってた。
「潤……」
そのまま、甘ったるい声で、俺の胸に甘えてくる。
「大丈夫? 酔っちゃったね」
「……酔ってないもん……ちょっとクラクラするけど」
もうほとんど見えてなさそうな目、身体中から酔ってる気配と色気が溢れてくる。
初めて酔っ払ったのかな? これって……ヤバイ。
こっちがクラクラしそう。
後ろから抱きしめた体は、アルコールで熱い。
翔は、モゾモゾ動き出して、ズボンを脱いでしまった。
「翔……脱いじゃダメだよ」
「熱いもん……全部脱ぐ……脱がして……」
トロンとした目で、ジッと見つめてくる。
「おい、翔……」
仕方なく、仰向けに寝かせて上に来たシャツのボタンを開けてやる。
下はパンツ一枚で、上はシャツのボタン全開の半裸状態。
「これは危ない奴だな……」
こんなんじゃ、外で誰かと飲ませられない。
「翔……酔っ払っても、誰かに触らすんじゃないぞ? 危ないから。」
「……危ない? キスされるから……?」
辿々しく、子供のように翔は話すけど。
「待って、キスされた?」
「うん……よくされるよ……何でかなあ……」
「はあ? どんな? 誰に?」
「よく……知らない人……とか……分かんない……」
カッと頭に血が昇った。
何で平気そうなんだ?
「ねむ……い……潤……」
すうっと、翔は眠ってしまった。
「翔……」
可愛い眠る顔を見つめる。
いつか、来るとは思ってた。
この子が攫われて、誰かのものになる日が。
でも、覚悟ができてた訳じゃない。
……やっぱり、いやだ。
そっと、軽い体を抱き上げる。
「翔、ベッド行くよ?」
「うん……」
俺の言葉には疑わずに、赤ちゃんみたいに頷く。
今の俺も、翔も酔ってるから。
この部屋の中は、真っ暗で。
誰もいないし月も、太陽も見えない。
「俺が、先に攫うよ……」
このままで……絶望したり、覚悟を決めるなら……この恋を始める覚悟を決めた。
俺は……何があったって、どうなったって。
どうせ、翔しか愛せそうにないんだから。
……新月の夜に紛れて、秘密の恋は、やっと始まった。
<end>
お久しぶりな三日月の恋でした。