(BL/OS/お山妄想)

 

 

(9)

毎日、ポストを覗いて、櫻井君へ手紙も書いた。
でも、手紙は来ないし、俺の手紙も消えやしない。

どうなってるんだろう?

未来の櫻井君は、何かあって、運命が変わったんだろうか?
2年後の出会いまで、待つしか無いのかな。
諦めようかと思ったけど、朝方になるとポストを見てしまう。
空っぽだったポストに話しかける。

「……手紙、もらって来てよ、お願い」

ポストは、黙ったままだ。
新しいポストじゃ無理なのか。

そのまま時間が過ぎていった。


――――――


絵を描く気にもなれない日は、櫻井君を探しに行くようになった。

相葉くんに頼める訳もないから、貰った写真を眺めながら歩き回る。
滅多に会えないけど、何度か通ううちに、櫻井君を見つけるのが上手くなっていった。

大抵、会社から出て行く姿。
教えてもらった会社のそばは、遭遇率が良かった。
会社の見えるガラス張りの喫茶店は、常連になってしまった。

「いらっしゃいませ。今日は、良いお天気ですね」

喫茶店のマスターは、親切で静かな人で、居心地が良かった。
コーヒーだったり、紅茶だったり、たまにケーキも食べた。

窓の外の櫻井君を見られた日は、嬉しくて。
櫻井君が、意外とドジっ子なことも、楽しくて。

「可愛い人だなあ」

今日も、こっそり喫茶店から見ていると。

「あっ!」

櫻井君が、スマホを落としたまま、タクシーに乗って行ってしまった。

「お、お会計お願いします!」

すぐに、走って行ってスマホを拾って。
そして、気が付いた。

「なんて言えば良いの?」

落とし物って、渡せば良いのかな?
でも、櫻井君は……もう見えなくて。

「どうしよう……」

落とし物として、届けるか迷ったまま、またさっきの喫茶店に戻った。

「困るよね? なんとかしなきゃ」

スマホを眺めていると、そのスマホに着信が来た。

「うわっ……公衆電話?」

櫻井君?

「は、はい……」

「すみません! スマホ落としたみたいで、そちらはどこでしょうか?」

(櫻井君の声? うわあ……)

初めて櫻井君の声が聴けた。
丁寧で、賢そうな。
でも、意外と大らかそうだ。

「あの、今喫茶店にいまして……その」

「今から、取りに行ってもよろしいですか?」

「は……はい……」

この喫茶店にいることを伝えて電話を切った。

「会っても……大丈夫かな?」

手紙を出そうとしただけで、ポストは壊れてしまった。

会えば、今度こそ運命が変わるかもしれない。


「どうしよう……」

会いたい。

櫻井君と話したいけど。



スマホを喫茶店のマスターに預けた。

「あの、お願いがあるんですけど……」

事情があって会えないんだと言うと。

「これを渡せば良いんですか?」

「はい、俺だって言わないで貰いたいんですけど」

「……わかりました」

マスターは、俺の頼み事を静かに笑って引き受けてくれた。

少し経って、喫茶店に櫻井君が入って来た。



マスターが、にっこり笑って櫻井君にスマホを渡すのを、窓際の席から見つめていた。

「ありがとうございます! 誰が拾ってくださったんですか?」

「ここのお客さまが……でも、お急ぎの用でお帰りになってしまいました」

「そうなんですか……お礼が言いたかったのに。常連の方ですか?」

「はい」

俺は、一人で赤くなってしまった。



「あの……お願いしても良いですか?」

櫻井君は、またその客が来たら、お礼にその客へ何かご馳走してくれと、5千円渡して帰って行ったらしい。

「では、失礼します」

櫻井君は、爽やかに店を出て行った。



マスターが俺に、5千円を持って来た。

「マスターが使ってください」

「じゃあ、これからのコーヒー代として頂きますね?」

「……はい」

会った事のない櫻井君が、俺にご馳走してくれることになってしまった。

……櫻井君、すごい良い子じゃん。

また、好きになった。
 

 

 

つづく

 

 

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